dream

□輪廻Side-B
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『輪廻Side-B』








「  」

 慣れない呼び名に、一瞬遅れて返事を返した。

 道端に倒れる僕を拾った少年が、過去も、名前も失った僕に与えてくれた、始まりの印。
 言葉通り死にかかっていた僕はその原因も見つけられず、唯一の持ち物だった薬もただのお守りと名のつく精神安定剤で、自己を探るなんのヒントにもならなかった。

 常に無表情を崩さない少年の以外な強引さに引っ張られて無理矢理病院に連れては行かれたけど、死にかかっていたくせ身体に悪い部分は何も見つけられなかったので、点滴をうっただけでさっさと追い返された。

 医者には何故か言わなかった、火傷のように黒ずみ痛む手の痣。
 それだけが僕に残された、僕が何者なのかを追う手掛かりではあるようなのだが。

 考える気も起きないし、そうする必要もないのだとどこかで思い、決めつけていた。

 理由があってきっと僕の人生は“リセット”されたのだという直感を信じることにして。

 今朝、僕は初めて僕に出会った。
 そして壬晴が僕に名前をつけた。
 それだけが、今僕が持ち合わせた唯一の真実だった。

 なれない街の人込みを掻き分けて進めば、一つわかる自分の過去。
 僕はきっと以前から、人の波を歩くことが苦手ということ。
 人を避けたその一瞬で壬晴は遥か前方に消え、だが代わりに僕は初めて壬晴の背中より広い世界を見つけた。
 そんな世界の中で、追い掛けた壬晴よりも先、伸びかけの髪を風になびかせ歩く一見なんの変哲もない少女。
 そんな彼女の姿が目に入ったのは、ただの偶然。

 世界中の不幸全てを背負ったような顔で向かってくる女の子に何故か生まれた嫌悪感は、でもそのことを本人は気付いていないのだと思うと同情に変わっていた。

 その肩越しに僕を呼ぶ壬晴を追って半歩を踏み出すけれど、僕もその娘も避けきれず互いの肩があたった。

 僕を振り返り、睨み付けたままで足を止め、そして彼女はどうしてか瞳を濡らした。

 僕の足は固まったように動かず、人の流れが僕等を避けて割れていくのを感じた。

“はじめまして”

 言葉が頭に浮かび、消えた瞬間。

 なぜだったのだろう、彼女につられるように、涙が零れたのは。





fin
こんな“消える”もありだと思うって話。


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