for

□vampire
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「お前に永遠の命を…」


「要らない」



首筋に牙をたてた雷光の身体を、少女は平常心のままで押し戻した。

同情、哀れみ、それがどんな感情だって良い、
少女が吸血鬼と共に生きる事を選択し、
自らも吸血鬼となることで、永久に続く孤独から男を救う…。

それが物語であって、だから


「受け入れてくれないと終わらないね」


「でも要らないんだもん」



ふてくされたように目をそらす少女の顎に指を置いて、
雷光は無理矢理自分と視線を絡ませる。


「いい加減におしよ、じゃないと」


「そもそもなんで私が吸血鬼にならなきゃいけないわけ?
あんたが人間になる方法考えなさいよ」


少女の強気な物言い……ある意味最も当然の考え方。

少数派の人間がその孤独を拭い去ろうとするならば、
仲間を増やすよりも自分が周囲に馴染む努力をした方が手っ取り早くすむ。


「けれどその術が思い浮かばないだろう?」


「……確かに」



吸血鬼。

血を飲んだ側ではなく飲まれた側が元の血を保ってられなくなるという
なんとも恐ろしい影響力を持った種族。

血液を交えたところで人の血が支配されてしまうのは目に見えてるし、
他に方法も思いつかない。






「…物語に出てくる女の子は、キスで王子様を助ける力を持ってたりするけど」


雷光は少女の顎を掴んだままでふうと息を吐いた。

その甘い息が鼻にかかって、初めて少女は顔をしかめた。


「それは誘っているのかい?」


と言うが早いか、でも渋々といった面持ちで雷光はその唇を重ねる。


「ん……」


「……」


「……」


「……」


「……これでは結果が分からないね」


さんざんキスを堪能した後で、雷光はぽつりとそう口にした。


「八十年たって私と貴方が生きていれば失敗。
死んだら成功…で良いじゃない」


限りある時間を生きる者と、永遠を生きる者、
二者では時の過ごし方がまるで違う。

しかし少女は平然と言う。


「死ぬつもりで毎日気合い入れて生きてみたら?」


まるで人ごとだと思っているのだろうか。

返す言葉もなく、雷光が出来ることと言えば溜息を漏らすくらいだった。


「それまで共に暮らすかい?」


少なくとも、退屈はしなくてすみそうだ。

どうでも良さそうにそう言って、
雷光は目の前の唇をもう一度味わった。




fin.




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