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□夏の風物詩
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一番怖いのは…



生きている人間に違いない…。





夏の風物詩





「ど、どうしたの…?」

買い物から帰ってくると、椅子に座っている銀時が、真っ青な顔で頭を抱えていた。
銀時の前には、長椅子に座り、何故か袈裟を着て数珠をぶら下げている長谷川さんと、これまた顔が青い新八君。その隣では、我関せずで座っている神楽ちゃん。「お帰り」と言われたので、少し戸惑いながらも「ただいま」と返す。
どう見ても異様な光景。重い空気がどんよりと流れている。聞いちゃいけない雰囲気だったけれど、思わず口をついて言葉が出てしまった。


買い物に行っている間に、一体何があったのだろう…。そして何故、長谷川さんはお坊さんみたいな格好をしているのだろう…。


バイトでも始めた…?
いやでも、お坊さんのバイトは流石にないか…。


ぐるぐる思考を巡らせていたら、神楽ちゃんが、こうなった経緯を細かく話してくれた。

「かくかくしかじかアル」

「あぁー、なるほどね。だから銀時あんなに青ざめてるのね」

「いやちょっと待って下さいよ!神楽ちゃん、かくかくしかじかしか言ってないのに、何で解るんですか!?ってか細かく話してないし!!」

「本編見てたら解るでしょ」

尤もな言葉を口にした。
神楽ちゃんからの説明がなくても、本編を見ていたのだから、どうしてこんな状況になっているのかは大体解る。

それに、例え万が一、本編を見ていなかったとしても、神楽ちゃんの「かくかくしかじか」には、一から十までの状況説明が成されているという設定にしてしまえば、何の問題もない。

「それは無理ありますって!!本編見てないんじゃ、何が何だかさっぱり解んないですよ!!」

「そこは察してよ」

「無理ですよ!!」

さすがに本編を見ていない方からしたら、一から十までは察せないか…。でも、一から説明したくても、ややこしい話な為、どう話していいか解らない。

だから要は、長谷川さんが此処に来た理由に戻ればいいのだ。
何も、十まで話す必要はない。銀時と新八君が青ざめているのは、色々ややこしい事になりそうだからで、そこはそこで、まぁ…うん…なあれだから話す必要はない。
それに、長谷川さんが此処に来たのは、怖い話を仕入れる為。それが拗れに拗れて、こんな結果になっているんだ。軌道修正すればいい話。

取り敢えず仲間に加わろうと、長谷川さんの隣に腰掛けた。銀時は未だに頭を抱えている。

「要はあれでしょ?夏らしく怪談話しようって話でしょ?」

「うーん…合ってるような違う様ような…。まぁ、でもそんな所だな。ネタが尽きて来ちゃってよぉ。桜ちゃん、何か怖い話知らない?」

困り顔の長谷川さんが、頭を掻きながらネタ提供を求めて来た。
動く度に、微かだけど数珠の擦れる音が聞こえる。怪談話をするおじさんらしく、袈裟を着ている長谷川さんからは、熱心さが伝わってくる。子供相手に金を巻き上げているのはあまりいい気はしないけれど、長谷川さんの場合、生きる為なのだから仕方ない。

公園で身の上話や愚痴を溢していたら、子供達に「怪談話をしてくれるおじさん」と評判になったらしい。長谷川さんらしいけれど、あまりにもそれが気の毒すぎて、このまま収穫なしに帰らせる訳には行かない。

「怖い話ねぇー…。どっかの誰かさんは幽霊苦手だしね。いいネタなんて掴めないわよねー」

ちらりと銀時を一瞥。すると、光の早さで怒鳴り声を返される。

「怖くねぇーよ!!そういうの信じてねぇーだけだしー!?」

必死に否定しすぎて、完全に目が血走っている。
人一倍怖がりで、怖い話を聞いたら、夜中一人でトイレに行くのに、歌いながら行くヘタレな彼氏に呆れた。
信じてないなら、あんなにビクビクする必要はない。怖がっているのは、信じている証拠だ。

「誰も銀時なんて言ってないけど。どっかの誰かさんしか言ってないんだけどなぁ」

「こっち見たじゃねぇーか!!」

「それは…あれよ…。銀時の後ろに…」

勢いよく振り返り、背後を確かめている銀時。からかっただけで、後ろには誰も何もいない。


っていうか、霊感ないから見えないし。


「ごめん。何でもないわ。んで?怖い話だっけ?」

長谷川さんに振り向き、にこっと笑顔で話し掛ける。背後で銀時は、「何なんだよ!!はっきりいるならいるって言えよ!!」と叫んでいるけれど無視。

ずっと後ろを気にしていればいいんだわ。このヘタレめ。

「桜さん、なんかレパトリー多そうですよねぇ」

「昔、看護師してたからね。怖い話ならたくさんあるわよ」
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