ss-under story-@
□お触り禁止
1ページ/8ページ
意外と可愛い貴方。
お触り禁止
もうすぐ銀高では、文化祭が開かれる。その為、準備に追われて生徒達は大忙し。放課後、どのクラスも残って準備をしている。
しかも意外な事に、停学まで食らった事のある不良の彼氏が、一番遅くまで残っていると来た。
大半の不良は、文化祭に非協力的なイメージだけど、私の彼氏はどうやら違うらしい。大半には入らない部類みたい。
「晋助ぇー。そろそろ帰ろー」
自分のクラスの準備が一段落したから、隣のクラスに顔を出した。意外な事に、教室には晋助しかいなかった。
いつもうるさ…いや、賑やかなZ組が静かな訳だ。一人しかいないんだから、騒ぎようがない。
私は、友達三人と準備をして居たけれど、その友達も、彼氏持ちの私に気を利かせて先に下校。
板に赤いペンキを塗っていた晋助が、赤いペンキが付いた顔で振り向いた。
「もうそんな時間か?」
「下校時刻の五時過ぎちゃったから、もう帰らなくちゃ」
いい加減帰らないと先生に怒られる。私が言いに来ないと、晋助はいつまでも残っているだろうから。それだけは避けねばならない。
っていうかぶっちゃけ、準備に飽きたから帰りたくなっただけ。
まぁ、晋助の顔みたくなったっていうのもあるけどね。
「これ終わらせたら帰ろうぜ」
再び板に赤いペンキを塗り始める。まぁ、先生に怒られるからなんて理由、晋助には通用しないか。
いつも怒られてるしね。
「顔にペンキ付いてるよ。赤いから返り血みたいになってる」
「格好いいだろぉ?」
振り向き様に、晋助は不適な笑みを浮かべながら、悪戯っぽく口を開いた。
その笑顔に、心臓をきゅっと捕まれた様な気がして、一瞬息が詰まりそうになる。
不覚にもドキッとした。
ずるい…。
明らかにずるいでしょ…。
自分の顔が武器になるって知ってて、わざとやってる…。そして、私が晋助の笑みに弱い事も。
「す、少しね…」
悔しいから、格好いいなんて言ってやんない。
余計な事しなくても格好いいんだから、ホント…辞めてほしい。
「素直じゃねぇーなぁ」
「仕方ないでしょ…」
顔を赤く染めながら言っても、意味なんて全くない。全て晋助にバレてる。だけど、それくらいが丁度いいのかもしれない。
口はぶっきらぼうだけど、顔に出やすいから、晋助は直ぐに本音を解ってくれる。
丸解りなのは悔しいけれど、晋助が相手だと、どうも調子が狂う。気持ちが、隠せなくなる。気持ちが隠せないから、言葉で強がるしかない。強気な事を口にしても、態度にすぐ出ちゃうから、悪足掻きでしかないのだけどね。
近くにあった椅子に座り、晋助の作業を見ている事にした。
板にペンキを塗り続けているけれど、何に使うんだろう…。
「そういえば、晋助のクラスって何やるの?」
「お化け屋敷だとよ」
板に真っ赤なペンキを塗りながら、晋助は振り向く事なく質問に答えた。
文化祭で、お化け屋敷と言ったら、定番中の定番。だからきっと、他のクラスでも発案されたに違いない。取り合いになっていた事は、皆まで言わなくても解る。
どうやって勝ち取ったのかは解らないけど。いや、正直知りたくないから、敢えて聞かない。
しかし、ふと気になる事を思い出した。
「あれ?銀八ってお化け苦手じゃなかったっけ?」
「あいつは、クラスの出し物に一切関わらないからな。っていうか、文化祭に興味ねぇみたいだぜ」
「成る程ね」
基本やる気のない、晋助の担任教師。見た目から、やる気ないのが解るけど、そこまでやる気ないとは…。けど、ある意味羨ましい。
クラスの出し物に一切関わらないという事は、煩く言われる事もない訳で。自由に準備が進められるという事。
まぁ、晋助のクラスを纏める事なんて最初から無理なのだから、関わらないのが得策。放っておくのが一番。しかし、私のクラスでは、そうはいかない。
無意識に溜め息をついていた私に気付き、晋助は作業する手を止めた。ペンキを塗っていた刷毛をバケツに戻し、私が座っている机へと歩み寄る。そして、机に浅く寄り掛かる。
私が、椅子に横座りして、足を投げ出しているから、すぐ隣には晋助がいる状態。
「お前のクラスは何すんだ?」
「花魁喫茶」
「それ、具体的に何すんだ?」
「メイド喫茶みたいなもん。生徒が着物で接待するだけ。けど、月詠先生が、雰囲気作りとか言って、皆に花魁言葉叩き込んでるよ」
「ふーん…」
再び無意識に溜め息を溢した。
月詠先生のスパルタ教育に、悪戦苦闘しながらも、着実と準備を進めている私のクラス。