-庭球-under story@
□永遠に紡がれる言葉
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君に…
永遠に伝えたい…
言葉がある。
永遠に紡がれる言葉
心地よい陽気の中、放課後の学園を一人彷徨う忍足。
今日の部活では、珍しい現象が起きていた。
忍足以外、皆、部活に出られないと言う実に珍しい現象。
跡部は生徒会の仕事。樺地は風邪で学校に来ていない。宍戸と長太郎は委員会の集まり。岳人は放課後に補習授業。ジローは昼休みから屋上で寝ていて、起きそうにない。日吉は用事があると言って、先に帰宅。
その所為で、忍足は一人暇を持て余していた。先程から探している人は、一向に見つからず…。
「ったく…桜はどこいったんねん…」
仕舞には独り言を盛らす始末。
中々見つからない彼女に、悪戦苦闘。
忍足は、半ば諦め気分で、何となく部室を訪れようと考えた。
桜はろくに部活に顔を出してはいないが、一応男テニマネ。
電話をしても出ないのだったら、部室で待っていた方が捕まる可能性は高いであろう。
「ったく…野良猫みたいな姫さんやで…」
言葉では呆れているが、表情は穏やかな、優しい表情をしていた。
見つからない、桜を求めながら、忍足は部室へと向かう。
* * *
「ん?」
部室に着き、ドアに手を掛け、ドアノブを回すだけの簡単な行動を、忍足はしなくて済んだ。忍足より先に、部室に来ている者がいるようだ。
ドアが開いているのがその証拠。
来た時点で少し開いていたドアを完全に開き、中に入っていく。念の為、ドアは閉めておく。
(ジローでもおるんか…?)
そう思い、誰かが居るかと、半信半疑のまま、ミーティングルームに入る…が誰もいない。
テーブルと椅子は揃えられたまま。
続いて、ミーティングルームの奥にあるロッカールームに入っていく。
大抵、ここのソファで寝ている者が多くて、真っ先にソファが目に入ると思いきや、忍足の視界に真っ先に入ったのは、自分のロッカー。朝、しっかり閉めたはずなのに…。何故開いているのか…。
気になりつつも、ソファへと視線を移すと、今まで探していた、尋ね人の姿。
「こないなとこにおったんかい…。どーりでみつからん訳や」
ソファで規則正しい寝息を立てて寝ている桜の姿。
桜は忍足のロッカーから、ジャージの上を引っ張りだし、掛け布団代わりに掛けて寝ていた。
今まで見つからない訳だ。まだ探していない場所にいたのだから。
忍足は、桜に近づこうと、ソファの前まで歩み寄ると、静かにしゃがみこんだ。
寝顔も可愛くて。思わず見惚れてしまう位、綺麗で、可愛くて―…。
(かわええ…。わざわざ俺のジャージ出して掛けるやなんて、めっさかわええやないの!)
一人幸せに浸る忍足。
桜にベタ惚れの様子。
幸せそうな笑顔を浮かべながら、桜の寝顔を暫し観察。
「ホンマかわえぇ…」
目の前で寝ている可愛いお姫様。
桜の頬に触れようと、手を伸ばした瞬間…、
「ん…」
寝返りを打ち、その反動で、ゆっくりと瞳を開けた。
目を覚まし、眠気と戦う様に瞳を擦る。
「あれ…侑…士」
「起きてもうた?」
「ん…何となく目が覚めた」
桜は起き上がり、眠たそうに瞳を擦る。
寝起きは果てしなくいい桜。不機嫌になると言う事は、あまりない。
忍足はしゃがんでいた腰を上げ、立ち上がると、桜の頬に手を添えた。
反射的な行動。愛しい気持ちが、泉の様に溢れてくる。
「侑士?」
(ッ…アカン…)
忍足を見上げる様にして、名を呼んだ桜。
眠たそうな表情は、何処か艶めかしくて…。
桜の場合は、可愛さ故に、少し潤んだ瞳が、凶器にもなってしまう。しかも上目遣い。
我慢が利かなくなった忍足は、桜をきつく抱き締めた。
「ゆぅ…し?どーしたの?」
「桜好きや…。めっちゃ好きや」
忍足がいきなり発した言葉に対して、不思議そうな表情を一瞬見せると、すぐに笑顔に戻った。桜を抱き締める腕に力を入れる。
「私も好きだよ?大好き…」
忍足の背中に腕を回し、抱き締めあう。
幸せな時間に浸る二人。
この時間を邪魔する者などいない。
この二人だけの時間が…。
二人きりの時だけ、時間が止まればいいのに…。
「好き。桜大好きや」
「侑士…」
「そやから…」
言葉を濁す忍足に対して、不思議そうな表情を浮かべる。
何を言おうとしているのか、検討も付かない。
「?…きゃっ!」
不思議そうな表情をしている桜を、後ろに押し倒した。
押し倒された桜は、小さく声を上げてしまった。
何が起きたのか瞬時に理解出来なく、驚きの表情を見せている。
「抱いてもええか?」
忍足の表情が、急に真剣な表情へと変わった。
忍足の問い掛けに、一気に顔を赤く染めていった。
しかし、これから部活。
誰かが来るかもしれない部室で、体は重ねられない。
「これから部活…」
「誰も来ぃひんよ」
「えっ…?」
「皆部活に出れへんから、今日の部活は休みになったんや」
「……」
誰も来ないと解ると、桜は先程以上に、顔を真っ赤に染め上げた。
侑士の真剣な表情に言葉が詰まる。