-庭球-under story@

□移り香が残る君
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俺の香が君へと移り


君と香が俺に移って…。





移り香が残る君





放課後の部活が終了し、次々と帰って行く部員を見ながら、浅いため息を付く。
ため息の主は、正レギュラーに上がったばかりの日吉。
正レギュの先輩や同級生を追い抜く為に、虎視眈眈と下克上を狙っている。
いつ出来るのかは定かではないが…。
時期部長候補として名が上がっている日吉が下克上出来る日は、然程遠くはないだろう。
部員達に無愛想にしていると、ロッカーを漁る音が聞こえてきた。
今部室に残っているのは、自分と一緒に帰る予定の桜しかいない。
自分ではないとすると、ロッカーを漁っているのは、桜しかいない。
座っているソファから顔を上げ、ロッカーに視線を向けると、日吉のロッカーを漁っている桜の姿があった。

「桜…何してるんだ?」

桜は日吉の一つ上だが、二人きりの時は、先輩は付けない。煩わしいだけだ。
普段から呼び捨てでいい、と言うのだが、日吉のきちんとした真面目な性格からして、それは嫌なのだ。一言で言えば、けじめ。日吉なりのけじめなのだ。
問い掛けられた桜は、漁っているロッカーから視線を離す事なく、返事を返す。

「うーん?別に何もしてないよ。汚かったから整理してただけ」

「汚くねぇよ…」

「汚いの!」

やっと日吉の方を向き、視線を合わせた。
怒り口調で、軽く怒ってみるが、全く恐くない。寧ろ可愛い部類に入るだろう。
日吉の言う通り、ロッカーは汚くない。どっちかと言うと、綺麗な方だろう。
しかし、桜は日吉から視線を外し、再びロッカーの中を漁り始めた。
ロッカーから物を取り出して見ては、またロッカーに戻してを繰り返す。
時々見せる、困った顔、不思議そうな顔、嬉しそうな表情と、コロコロ変えていく。
日吉のロッカーに入っている物は、桜が入れた物が殆ど。
MDウォークマンや、桜の筆箱や教科書類が入れられている。
扉の裏に貼られている桜のプリクラ。勿論、桜が勝手に貼った物。
真剣にロッカーを漁る桜。
そんな桜を見ながら、浅く短いため息を零した。

(全く…何やってんだ…)

呆れているのだろうと思わせているが、表情は困った様な笑顔を浮かべていた。
穏やかにさえ見えた。
部室で二人きりで居ても、あまり会話を交わさないが、その分愛しさはある。
この時間を満喫していた。ゆったりした時間を、味わっている。

(きっと桜は、俺がこんな気持ちになってるなんて知らないだろうな…)

真顔でそんな事を思っていた。
日吉がこんなに桜を大切にしている事に気付いていない。
こんなに桜を必要としている事に、本人は気付いていない。
こんなに愛しいと感じたのは桜が初めてで…。
最初から今まで、戸惑ってばかりの恋だ。
俯いている日吉の頭の上から、不意に桜の言葉が降ってきた。

「ぴーよし!見て見てぇー」

「ぴよしって呼ぶ…な…」

声と同時に顔を上げた瞬間…。日吉は息を呑んだ。
言葉が途切れてしまい、続かない。
衝撃的な物が、日吉の視界に飛び込んできた。

「えへへぇー…若のジャージ。似合う?」

桜は正レギュラージャージを来て、一人はしゃいでいる。
日吉のジャージだから、桜にとっては、かなりブカブカ。
余る袖に、お尻を隠してしまいそうな位の裾。それに付けて、可愛い桜。
日吉の前でくるくると周りながら、飛びっきりの笑顔を零している。
それを見てしまい、理性の制御が出来ずに…。
桜の笑顔を見た次の瞬間、日吉は桜の自分へと引き寄せ、ソファに押し倒した。
武術を習っている所為か、一つ一つの仕草を綺麗にこなす。
あっと言う間に押し倒されてしまった。故に、気付いたら、ソファに寝転がり、日吉に腕を押さえられていて…。

「わ…若?ど、どーしたの?」

戸惑いながら、やっと口を開く事が出来た。
桜の瞳は、戸惑いに微かに揺れている。
急に押し倒されて、何がどうしてこーなったのか、一瞬にして理解出来ない。
抵抗する暇さえない位あっと言うまで…。
桜の問い掛けに、日吉は真顔で口を開いた。

「桜に欲情した」

「なっ!!何で私に欲情なんてすんのよ!?」

日吉の一言に、一気に顔を赤く染めていった。
桜のジャージ姿の笑顔を見て欲情した。それが正直な気持ち。
しかし、それを素直に言いたくはない。言ってしまったら、桜はもう自分のジャージを着てくれない様な気がしたから。
ジャージを着ると襲われる。そんな先入観を植えたくはない。
可愛い桜だから。不安にはさせたくない。
だから、言わない。

「桜が可愛いのがいけないんだからな」

「はっ!?訳わかんなッ!」

桜の言葉を遮るように、自分の唇で口を塞ぐ。
深くて長いキス。
桜の唇を割って、日吉の舌が侵入していく。
桜の舌と自分の舌を絡ませて、より激しいものにしていく。
桜の呼吸を奪っていく。呼吸が出来ない所為で、瞳に涙を浮かべる桜。
瞳の端から、涙が溢れて伝う。
桜の手に、自分の指を絡め、ギュッ‥と握り締める。
唇を塞がれてしまっては、話す事も、抵抗する事も出来ない。
桜は、抵抗する気力を無くし、日吉の成すがまま。
もう、どうして自分がソファに押し倒された理由なんかどうでも良くなって…。
日吉との契りに、華を咲かせていく―…
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