-庭球-under story@

□守るべき者
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手放さないと決めた。


お前を好きになった瞬間。


そう、自分に誓った。





守るべき者





隣のクラスの教室の前を通り掛かった。
それがいけなかったのか…。チラっ‥と見えた教室では、桜と忍足が何やら、話をしていた。
桜が誰と話そうが、俺が割り込む権利はない。いや…、無い訳じゃない。俺がその権利を無くしたんだ。
桜と付き合うと決めた時、約束したんだ。

「俺達が付き合ってる事…誰にも話すな」

桜の為だった。
俺達が付き合っている事を、親衛隊の奴等が知ったら、怒りの矛先が向くのは、間違いなく桜だ。
あいつらは桜に何をするか解んねぇ。
桜を守る手段だった。
他に方法が思い浮かばなかった。こうするしか…。
絶対に手は出させねぇ。
俺が本気で好きになった女だ。他人に、傷付かせるわけにはいかねぇ…。
だから、桜が忍足と話していても、「近づくな」の一言も言えない。
桜は俺のだ。それすらも口に出来ない。
それが一層、俺の中にある怒りを駆り立てた。

「っきしょー…ッ!!」

誰も桜を見るな。
触るな。
近づくな…。
頼むから…。
俺以外、桜に触れるな…。


* * *


解らない。
私達の関係を秘密にする理由が…。
隠しているのは、私と付き合っていると知られる事で、自分の株が下がるから…?
こんな事考えたくないけど…。私の思考は良い考えには向いてくれないらしい…。
だから、たまにこうして、親友の侑士に話を聞いてもらっているのだ。

「あんただけだよ。私達の事知ってるの…」

「当たり前やん。お前の親友やし」

「それもそうだよねぇ〜。はぁ…相談出来るのもあんた位しかいないし…」

私達の事を知っているのは、この学校じゃぁ、侑士しかいない。だから相談出来るのも侑士しかいない。
けれど相談しても景吾の真意を知っているかのように「大丈夫や」と言いながら笑うだけ。
何だか相談しているのが馬鹿みたいじない…。いや、相談して不安になる事自体馬鹿なのかも知れない。
私の為を思っての沈黙…。
そう思っていいのだろうか…。
ただ、自分の株を下げたくないから…かも知れない。
どっちにしろ、不安は中々消えてくれない。
一度現れた不安は、中々取り除けないもの…。
何だか…私ばかりが景吾を好きみたいで…。
景吾は…?私の事を好きでいてくれているの?
頷いてもらえれば、きっとこの不安は消えていくだろう。けど、首を横に振られたら…。それが恐くて恐くて…。
侑士に相談しても、「大丈夫や」と決まり文句の様に言うだけ。侑士曰く、どうやら私は、景吾に愛されているらしい…。けど、景吾の口から直接聞かないと安心出来ない。


* * *


桜と忍足のツーショットを見た時、手が出そうになった。
桜の楽しそうな笑顔を見てしまった…。
遠くから見ているだけ。それで満足しなきゃいけねぇんだ。
けど、桜の笑顔を間近でみているのが俺じゃねぇと思うと…、悔しくて仕方ねぇ…。
桜は俺の女だ。
誰かに奪われる位なら、いっその事、俺達の関係、バレてもいい。
桜が傷つくのも、取られるのも、俺には我慢出来ない。
誰かに取られる位なら…。
そう思ったら、俺はすぐに行動に移していた。
放課後、桜の教室に向かった。
この際、周りの事なんか気にしちゃいられねぇ。
目当ては桜だけ。
教室に入るなり、俺は桜以外眼中にないかの様に桜に歩み寄る。
桜の驚いた顔。そして騒つく教室。

「帰るぞ」

「えっ?ちょっ…」

桜の腕を掴み、戸惑う桜を引っ張り教室を後にした。
周りの雑音なんてお構いなし。
桜の腕を引っ張り、廊下を歩いていく。後ろでは狼狽えている桜。無理もない。その間、俺は一言も口を開かなかった。
しかし桜はそう言う訳にはいかなかった。戸惑いながらも俺に聞いてくる。

「ちょっと景吾…いきなり何?ねぇ」

「………」

「ねぇッ!」

桜の質問には答えなかった。
そして、そのまま沈黙を通し続け、学校を後にすると門で待たせていた車に乗せた。

「出してくれ」

「はい」


* * *


いきなり景吾が教室に来て、私を連れ出して、訳も解らぬまま車に乗せられて…。
解らない。全然解らない。
聞いても、景吾は何も答えてくれない。
車で移動中の時も、景吾は何かを考える様に外の景色を眺めているだけ。
私を見ようともしなかった。
そして景吾の意図も解らずまま、景吾の家に到着。
夕方、景吾の家に来るのは珍しい事ではない。けれど、こうして来るのは初めてで…。
景吾の部屋に通されて、部屋には二人きり。
景吾の目的が解らない。けど少なからず何か理由があるはず…。

「どういう事…?」

「……」

答えてくれない。
何故…?

「答えてよ」

景吾の気持ちが解らない。
何も話してくれない。
尚更解らない。
私の問い掛けにすら答えてくれない。
すると暫らく沈黙を保っていた景吾が、自ら沈黙を破った。

「お前…俺といるより忍足といる方が楽しいか?」

「なっ!なんで…」

なんでそんな事言うの…?
侑士はただの親友で、特別な感情はない。
特別な感情を抱いているのは景吾だけなのに…。
私に背を向けているから、景吾の表情は読み取れない。
だから余計に、景吾の考えが理解出来ない。
伝わってなかった…?
私の気持ち…。
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