-庭球-under story@

□最高の誕生日
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「別れよう…君にはついていけない…」


いきなり彼氏から告げられた別れの言葉。
瞬時に理解出来なくて、私は暫く、その場に立ち尽していた―…





最高の誕生日





「くっやしぃ―――ッ!!」

教室で絶叫した。
かなり頭に来ていた。叫ばなきゃやっていけない位に、私は怒り浸透。
彼氏にいきなりフラれた。なんの前触れもなく、本当にいきなりの別れ話だった。
訳が解らずに立ち尽くす私を無視して、今となっては元カレと呼ぶべき男はさっさと私の元から去っていった。
未練は感じない。でも、フラれたという悔しさは根強く心に残っている。
「振る時は自分から」と言う、ある意味無謀な、しかも勝手な目標を立てていた私には、かなりの衝撃だった。
何がいけなかったのだろう…と過去を振り返ってみるが全く解らない。思い当たる節が全くない。

「朝から賑やかやなー」

「うー…」

私が悔しがりながら机を無意味に叩いていたら、背後から聞きなれた声が降ってきた。
その声の主は伊達眼鏡。
私の文句を無言で、だけど迷惑そうに聞いていた友達が、微かにだが小さい声を上げた。
彼氏にしたいNo.1らしい。跡部様と並ぶけど…。

「彼氏にフラれたんやってぇー」

妙に楽しそうな忍足がムカつく。
人の神経逆撫でするのと、テニスが得意な男。
クラスが三年間一緒だと言う所以で、よく話す男友達。
だから陰で何かされたり、こそこそ話をされたりするけど全部まるっきり無視。もう慣れた。

「聞いてたなら聞くな!!」

「まぁまぁヒステリー起こすなや」

「誰の所為だ!!」

「さぁ?」

憎い…ッ!!
何もかも見透かしているような忍足が憎い。
本気で怒れないのは惚れた弱味かもしれない。
格好いいよ。めちゃくちゃ格好いいよ。本人に言うと調子に乗るから言わない。今更格好いいなんて言えないし。
今は元カレの彼氏も、雰囲気が少し忍足に似ていたから付き合っていただけ。でも、優しかった。優しくて、いい人だったから、いつの間にか本気で好きになっていた。だから、振られたのが悔しいのかも知れない。だけど、忍足みたいな格好いい人が私なんかを相手にしてくれる訳ない。だから、私には手の届かない人なんだよ…。
振り向いてはくれないから。きっと、私の事異性として見ていないに決まっている。その証拠に、いつもからかってくる。今だってそうだ。からかいに来ただけ。
近い様で遠い存在。届いてそうで届いてない距離。だから、友達のままの方がいい。

「ったく…からかいに来ただけ?暇な奴だねッ!」

「嫌味たっぷりな奴やなぁー」

「本当の事じゃない」

「まぁええわ。桜今日暇やろ?」

「……彼氏にフラレたからずぅーっと暇ですけど…」

「ほなら今日デートせぇへん?」


―――――えっ…?


なんで私、忍足に誘われてるの?
確に今日私は暇だ。
彼氏と別れたんだから、用事なんてない。
だけど……。
なんで今日、デートに誘うの?
期待しちゃうじゃん。その気にしちゃうじゃん。
今日じゃなくても、デートするなら明日でもいいじゃない。
なのに、なんでいきなり今日誘うの?

「えっ…」

「そやって今日桜誕生日やろ?」

「そ、そうだけど…」

「誰も過ごす奴おらへんなんて寂しいやん。そやから俺が一緒に過ごしたる」

「なっ!?」

なんだこいつはッ!?
そんな理由かよ!?
理由はどうあれ、忍足と一緒に過ごせるのは嬉しい。だけど…ッ!!その理由が気に食わないッ!!
仕方なく私と過ごすみたいじゃない。それでも、嬉しいと思ってしまう単純な私。

「なんやせぇーへんのか?」

にやつきながら言う忍足。
負けず嫌いな私の性格見抜いている。私がここで行かないと言わない事を完全に見抜いている。悔しいけど、私は頷くしかない。

「い、行くわよ…」

「ほな決まりやな」

悔しい。だけど嬉しい。
こんな笑顔向けられたら、誰だって期待しちゃうよ。
忍足がモテる理由が身に染みてよく解った。
期待してもいいの…?
勘違いなら、早く言って欲しいよ…。
我儘なんて言わない。
結ばれたいなんて、そんな欲望抱いたりなんてしないから。
誕生日、一緒に祝ってもらえるだけで幸せだから。

「学校終わったら迎えいったるから。ちゃんと支度しといてやぁ」

「わ、分かってるわよ」

私は滲み出る笑顔を抑えながら、強がりで返事を返した。
期待しないようにしているけど、何かあるんじゃないかと先の展開を期待しちゃう。
何もある訳ないのに…。だけど、もしかしたらと言う僅かな可能性にすがるしかない。
期待を持って、裏切られる事を前提に…。
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