-庭球-under story@

□かたいきずな
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こんな気持ちになるなら…


君を好きにならなければ…


良かった―…





カタイキズナ





何であいつはこんなにモテるんだ?
なんか…、近くにいちゃいけないみたい。
一番傍にいるのは俺なのに、傍にいちゃいけないみたい。
あいつが歩くだけで皆が振り返る。
回りの男子はあいつに夢中になってる。
夢中になる理由なんて沢山ある。
歩いている姿は凜としていて、まるで一輪の、汚れを知らない花。
笑顔だって、整った顔で笑うから余計綺麗。
柔らかい笑みで、語りかけるように、優しく、微笑み掛けてくる。
透き通るほど細い髪の毛。つい、手を伸ばし、触りたくなってくる。
その細い体にはぴったり。
あいつは俺のもので…、皆のものじゃない。
きっと、俺の心は歪んでいると思う。
あいつが…、自分以外と肩を並べて歩いているだけで、引き離したくなってきちゃう。
俺のものなのに、そうじゃない気がして、不安に押し潰されそうになる。
遠くにいるみたいに思えて…。
いつ、どんな時でも、気持ちを確かめていないと…。


不安で…。


淋しくなってくる。


*  *  *


俺が机に突っ伏して待っていると、扉が音を立てながら空いた。扉が開いたと思ったら、綺麗な声が聞こえて来た。

「ゴメン!遅くなって…」

「全然平気…」

俺は、桜の顔を見る事なく、机に突っ伏したまま口を開いた。
なんか駄々こねている子供みたい。
俺ガキだ…。桜の心が手に入らないからっていじけている…。
馬鹿みたいと自分で解っているのに、体が言う事を聞いてくれない。

「ジロー?」

「ねぇ…桜。なんで桜は俺だけのものじゃないの…?」

俺は顔を上げる事なく、か細い声で桜に問い掛けた。
桜は俺一人だけのものじゃない…。皆のもの…。
これは単なる嫉妬だ。
桜が俺だけのものにならないから…。
こんな醜い心、桜には見せたくなかった。


嫌われたくない…。


桜が好きだから、嫌われたりなんかしたら、俺…。


どうしたらいい?


皆のものなんて嫌だ。
桜は俺だけのものでいてほしい。
そう思うのは、我が儘なの?

「何言ってんの。私はジローのものでしょ」

机に突っ伏している俺の頭を優しく撫でながら、桜は口を開いた。
それでも、俺は何だか安心出来なかった。
欲張りだって解っている。
桜が俺を一番好きでいてくれている事も解っている。


それでも…。


桜が何処かに消えてしまいそうで…。


他の男の所に行ってしまいそうで…。


怖い。


今、桜を手放したら…、俺は、どうなっちゃう?


一人で立ち上がる事なんて、一生出来なくなるかも知れない。


俺は、俺の頭を撫でてくれる桜に抱き着いた。
包み込む様にじゃなくて…、縋る様に…。
手放さないように、桜に抱き着く。

「ジロー?」

「ねぇ桜…」

「俺の傍から離れないで…」

「離れるつもりないよ」

「他の男の所になんか行かないで…」

「私にはジローだけだよ」

優しく微笑みながら、俺に言い聞かせるように、言葉を返される。
その一つ一つの言葉は、俺を安心させる言葉達ばかり。
優しい声が心地良くて…。
桜に嫌われてないって解って安心した。

「桜ー…ずっと傍にいて。俺の傍にずっといて」

「何処にも行かないから…。ジロー置いて消えたりしないから…」

「俺だけのものでいてぇー…。どうすればずっと俺のもので居てくれる…?」

「私が心を返さない限り、私はジローのものだよ?」

桜の言葉を瞬時に理解する事が出来ず、俺は顔を上げた。
顔を上げた先には、桜の綺麗な柔らかい笑みが待っていた。
俺の好きな笑顔だ。
桜の涼しそうな、儚く笑う笑顔が好き。
守って生きたいと願う笑みだ。

「ジローは、他の誰よりも大切なもの持ってる。他の人が絶対に持っていないもの」

「他の人が絶対に持っていないもの…?」

「私の心だよ。私はジローにしかあげてない。だから…、ジローが私に心を返さない限り、私はジローのものだから…」

「一生返さなくていいの?」

「いいよ。一生ジローのもの。ジローが私を嫌いになった時、返してくれればいい」
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