-庭球-under story@
□思い掛けない恋の行方
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決して、離れたりなんてしないから。
あなたの傍に、ずっといさせて下さい。
思い掛けない恋の行方
彼氏の景吾は格好いい。
頭もいいし、運動神経も抜群で、家は金持ちときた。
欲しいものは望めば手に入るという中で育った故、少し我が儘な所があるが、そこがまた可愛かったりする。
自己中で自分勝手で自由奔放な景吾だけど、それがらしくて私は好きだ。
若くて、才能にも溢れている。
自分のしたいことが出来る年頃で、青春を謳歌している真っ最中。
なのに、何で景吾は私なんかを選んだんだろう…?
景吾より年上だし、そんなに可愛くない。
同い年で、可愛い子なんて、氷帝になら幾らでもいるだろうに…。
なんで私?
「こんなおばさんのどこがいいんだか…」
隣で寝ている景吾の頬をツンツンとつっつく。
先ほど寝たばかり。部活で疲れているから、起きやしないだろう。
景吾との年の差は八つ。
そして、出会ったのは二年前。
景吾のお父さんが秘書に手を出したとかで、問題の秘書が辞めてしまい、秘書課の私が、景吾の父の秘書をすることになったのだ。そして、跡部家に出入りするようになり、景吾と出会った。
「あなた…社長のご子息の景吾様ですよね」
「あぁ。あんたは?」
「秘書の神崎と申します。これから宜しくお願い致します」
「あぁ」
初めて会った時の景吾の態度は、あっさりしていて、しかも素っ気なかった。
だから、まさかこんな風になるなんて思っていなかった。
出会った時は、子供だからとあまり気にしていなかったが、最終的には、私は口説き落とされていた。そして、恋人として跡部家に逗留することを許されている。
大体は、景吾の部屋で過ごすが、一緒に居られる時間は、そんなに長くはない。
昼間は景吾の父に付きっきりだし、休む時間と言ったら、夜しかない。景吾と、こうして居られるのは、夜くらいなもんで、こんなことを思うのも、夜くらいしかない。
ずっとは、一緒にいてあげられない。
会いたい時に、会ってあげられない。
こんなに融通の利かない恋人で、景吾は本当にいいのだろうか…。
望むことは、何一つしてやれない。そんな恋人を、どうして景吾は選んでくれたんだろう…。
「ねぇ景吾…私、あんたの傍にいてもいいの?」
何もしてあげられない。
腕組んでデートしたり、学校帰り一緒に帰ってみたり、好きな時に会いにいったり、好きな時に電話をしたりして。
恋人らしい恋人の一時なんて、過ごしてあげられない。
景吾と同い年の恋人同士がするような甘いひとときなんて、例え景吾が望んだとしても、叶えてあげられない。
私だって傍にいたいし、甘い時間を過ごしたい。
だけど、私が秘書を辞めたら、景吾の傍には居られなくなる。距離は離れていくだけ。
「ごめんね…」
そう呟いて、私は景吾に背を向けた。歩こうとする私は、それ以上は進めなかった。
「えっ…」
突然に、私は動きを止めた。いや、止められたんだ。
気付いたら、背後から景吾に抱き締められていた。
「景吾…起きて…」
「謝ることねぇだろ」
「えっ…」
景吾の言葉に、私は耳を疑った。まるで、私の思っていることすべてを、受け入れてくれたみたいで…。
驚きと一緒に、喜びが溢れてきた。
景吾には、解ってしまうんだ。
「お前の考えてることくらい解る。どうせ、恋人みたいな時間を、過ごしてやれなくてごめんってことだろう」
「な、なんで…」
君には解ってしまうんだろう。
言葉にしていないのに。
思っているだけなのに。
どうして…
君にはすべてが伝わってしまうんだろう。
私のすべてを。そして、心が。
やっぱりすごいや。
景吾はすごい。
君は、なんでもお見通しなんだね。私の心や、思っていることすべてを、解っているんだね。
「恋人の考えることくらい解んねぇとな」
言葉にしなくても、景吾には伝わっている。
そう思ったら、私の口は自然と言葉を紡いでいた。
「景吾が…望んでいる恋人に、私はなれてない。仕事で忙しくて、傍にいてあげることも満足にできない」
「それで?」
「景吾が傍にいて欲しいと思うときに、傍にいてあげられないし…融通だって利かないよ?」
「だから?」
「だから……私が…傍にいていいのかなって…」
やばい…。
なんか泣きそう…。
要は、ただ不安なだけ。
年上で、融通の利かない私を、景吾は選んでくれた。
けど、いつ捨てられるか解らない恐怖と戦っている。
景吾は若い。だから、いつか捨てられてしまうんじゃないかって、不安なんだ。
景吾を、誰よりも愛してるから…。だから、怖いんだ。