-庭球-under story@

□シンデレラガール
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恋した相手は…



学園の王子様。





シンデレラガール





皆が憧れる。
勉強や運動はトップクラス。容姿だって、王子様並みに格好いい。家柄も、最上流階級。


手を伸ばしても届かない人。
一般人が手を伸ばしたって、絶対にその手は届かない。いや、届く届かない以前に、伸ばした手にすら気づかれない。ううん。それ以前の話だ。

憧れだから。
手の届かない人だと諦めて、伸ばす事すらしない。届くはずがない手をわざわざ伸ばす程、無謀じゃないから。

周りにはいつも綺麗な人達。
だから、その他大勢の女一人になんて、気付くわけがない。

諦めから入れば、傷付く事はない。それに、あの人は皆の王子様。振り向いてくれないなんて解っているから、遠くから、見ているだけで満足だ。

テニスコートを囲む女子達を毎日見ていたら、望みなんてない事を嫌でも思い知らされる。
こんなに人気のある人が、一つ年下の女子テニス部員なんかに、振り向いてくれる筈がないと。

身に染みて解っているから、高望みなんてしない。それでも、好きな人の人気を目の当たりにして、落ち込まない筈がない。
無意識に部活中にも関わらず、溜め息をついてしまったらしい。飽きれ顔の友達が話しかけてきた。

「桜、部活中に余所見してると、部長に怒られるよ」

「うん…。でも…部長もがっつり余所見してるけど…」

力なく指差した方角に視線を向けると、そこにはがっつり隣のコートをガン見している部長の姿があった。隣には、男子テニスが気合い入りまくりの練習をしている風景。そして、お目当ての人がボールを打つ度に、「キャーッ!」と叫んでいる部長に、ちょっと呆れている部員。
女子テニス部の大半は、あのイケメン集団を間近で見られるからという理由で入部しているのだ。部長もその一人で、練習中にも関わらず、ああやって男子テニス部を見詰めている。しかし、練習はしっかりする。ずっと、隣のコートを見ている訳じゃない。
自分に視線が集まっている事に気付いた部長が、わざとらしく大きな咳払いをしてみせた。そして、何食わぬ顔で声を張り上げる。

「乱打はおわりー!!ぼーっとしてないで、次サーブ練習に入るわよー!!」

部長の叫び声に、皆が「はい」と大きな声で返事を返す。
男子テニス部は強い。しかし、隣のコートを見ているだけじゃ、当然ながら強くはなれない。
見ているだけで強くなっているのなら、今頃、男女共に全国常連校だったろうな。でも、女子は全国常連所か、予選一回戦目で勝つか負けるかという低いレベルにいる。皆、ミーハーな気持ちで入部したが故に、あまり練習に身が入っていない。それでも、必死に練習してます感を出そうと、必死に取り繕いながら練習を進めていく。
少しでも、男子テニス部の気を引きたくて。まぁ、男子テニス部は練習が過酷ゆえ、あまり女子テニス部をジロジロ見る事なんてないのだけど…。

汗を掻きながら、必死に練習している姿を見られるだけで十分。
いつもはあんなに遠い人が、こんなに近くで見られるだけで十分なんだ。振り向いてなんて、思っちゃダメ。欲張りすぎる。

あの人は学園の王子様で、テニス部部長。生徒会長も努めている、学園の人気者。そんな人、振り向いてくれる訳がない。

「跡部先輩…」

想い人の名を、自分にしか聞こえない小さい声で呟いてみた。
口に出したら、届きそうな気がして…。だけど、この距離で聞こえる筈がない。馬鹿みたいと、嘲笑を浮かべる。「何やってんだろう…」と、少し恥ずかしくなった。届く訳がないと解っていても。手を伸ばしても無駄だと解っているのに…。もしかしたら…なんて思うのは、恋する乙女の悪足掻きなのに…。


だけど、どうしようもないんだ。好きなんだから。どうしようもなく、好きなんだから。
自分じゃ、この気持ちは制御できない。矛盾だらけなのに、辻褄合わせもままならない。

コートに立つ跡部を見つめる。
掛け声を上げ、力一杯のサーブで相手コートにボールを送り込んだ。しかし、相手はサーブを受け取れず。「しっかりやれ!」と怒鳴り声をあげている。
見ているだけでいい。手を伸ばしても意味がない。そう、改めて思い知らされた。

可能性なんてない。
もしかしたら…なんて可能性、微塵も有り得ない。



有り得ない…。
そのはずなのに…。



「えっ…」

いきなりの出来事に体が対応出来ずにいる。
跡部を見詰めていたら、不意に、跡部がこちらを振り返った。その瞬間、不確かだけど、視線があった様な気がした。それほど近くないから、合ったか合わないかなんて解らない。だけど、こっちを見た事に驚きを隠せず、跡部の顔を見た瞬間、顔から火が出るほど恥ずかしくなり、顔が真っ赤に染まった。
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