Tales of Rebell
□〜家族〜
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〜家族〜
変わらない日常
平穏な日々
大切な妹がいて、俺がいて
それは宝物みたいに大事で失いたくないもの
ほら
この毎朝のやり取りだって、実はどっちも楽しんでるんだよなぁ…
『お兄ちゃん!起きて!』
すかー
『いい加減に起きてよ!…お兄ちゃんっ!』
…も…少し…リリス…お願―…
「分かった」
……あれ?
ガラリと変わった口調と声質
エルロン家の毎朝恒例行事を夢うつつな状態で楽しんでいたスタンが、妹とは違う淡々とした声に思わず眉根を寄せたところ…
「ほい。準備は出来てるわ」
「あぁ」
またも増えた声に、ガチャガチャと鳴る金属的な音が耳を突く
夢?
現実?
睡魔に支配された頭でスタンがそう思うものの、深い眠りへ落ちて行く意識は止められず
「すかー…」
そして再度軽く寝息を立て始めた途端
「右手にお玉を!」
「…左手にフライパンを」
「横たわりし者に正義の鉄槌を!」
「…奥義」
「死者の目覚めーっ!!」
ガンガンガンガンッ!!
「!?」
それはもうとてつもない騒音だった
直接脳を掴まれて揺さぶられているような気になる程の衝撃
それが左右両方の耳へ襲いかかってきたものだから、さすがのスタンもたまったもんじゃない
「なっ…なななな何っ!?」
「ありゃ。ホントに起きたわ」
跳ね起きてみれば、そこにいたのは嬉しそうに笑うハロルドと仏頂面のリオンで
何故か二人共、それぞれの手にフライパンとお玉を握っている
「おはよ、スタン。今日も実験日和よん♪」
「…何故僕がこんな事を…」
「ぇ……おはよう…」
ハロルドは(一応)女性だからともかくとして、リオンにフライパンとお玉という組み合わせが有り得ない程にミスマッチなものだから
スタンの頭はますます混乱してしまい、ベッドの上でボンヤリと首を捻るしかない
そうしてようやく
「…あ……そっか」
寝癖の付いた頭を掻きながら、この状況に至る経緯を思い出す事が出来た
―…足の怪我も治り、数日前からリオンとの実践訓練が始まったのだが…
スタンの寝起きが呆れるくらい悪いのである
揺らしても叩いても怒鳴っても、とにかくなかなか起きる気配がない
なので痺れを切らしたリオンが
『お前は地上ではどうやって起きていたんだ!』
と、怒り混じりに尋ねたところ、しょんぼりと肩を落としたスタンがエルロン家の奥義を話したため、早速それをリオンとハロルドが試してみたらしい
そして効果はかなり絶大なものであった
「おっもしろいわね〜。一体どういう理屈でコレを使った時だけ素直に起きれるのかしら」
「デシベルの問題だろう。あと、この騒音で目覚める事が習慣になっているだけじゃないのか?」
「パブロフの犬みたいなものかしらねぇ?」
輝く瞳をスタンに向け『実験&研究させて!』と訴えるハロルドを牽制しながら、リオンはマントを翻して部屋の扉へ歩を進める
スタンを起こすだけで時間をかなりくってしまった
時間に厳しいリオンとしては、これ以上のタイムロスは許せないものがある
「さっさと起きて来い。…10分以内に来なければ、今日の特訓はさらに厳しくいく」
「……う」
「二度寝はしちゃダメよん♪」
シッカリ釘を刺されてしまい、ふわぁ…と欠伸をしてスタンはベッドから立ち上がった
それを確認して、リオンとハロルドはそれぞれに部屋を出てゆく
とにかく睡魔を紛らわすためにも、着替えなくては
「…おはよ、ディムロス…」
『何がおはようだ。ああまでしないと起きれないとは情けない…』
「うるさーい」
ディムロスにまで小言を言われそうになり、急いでスタンは上着に手をかけ…
ふと、気になる事を思い出した
「あのさ、リオンは両親と一緒に住んでないのか?俺、まだ会った事ないんだけど」
『…だろうな』
「お世話になってるし挨拶したいのに、何で屋敷にいないんだろう」
『…それは我が伝えるべきではない。いずれ知る時がくる』
「?」
ディムロスの言葉は良くわからなかったが、会って話をしてみたいと思った
自分にはリリスという妹がいる
リオンにもそんな大切な家族がいるのだろう
「きっと優しい人達なんだろな。楽しみだよ」
『………』
そして着替えを済ませたスタンはディムロスを片手に持ち、飛び出すようにして部屋を出て行った