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□真実と幻想と
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……

暗い…
もう…体が動かない
指すら曲げる事もままならずに
脇腹に空いた穴から、生命が―…生温い液体がとめどなく流れ出して

『―………っ!』

口も動かず、漏れるのはか細い吐息
耳に届くのは、荒々しく流れる水の音だけ

冷たい…
寒い―…
僕はこのまま…
独りきりで…
死ん…で―…?



パチッ―…!

「―…っ!」

焚き火の中で木の枝が激しく弾ける
それで―…意識が覚醒した

「―……夢…か」

背中に張り付く服の感触に、汗を酷くかいた事に気付く
どうやら見張りの最中にうたた寝をしてしまていったようだ

「シャル―…っ」

彼―…ジューダスは、自らの相棒である剣の名を呼ぶが、すぐにフ…と唇を自嘲的に歪めた

「…僕もまだまだだな」

いない相手を呼んでしまうなど―…
シャルティエはもう…側にはいなくなったではないか
そして―…

「……スタン」

小さく、いないはずの相手の名を呼べば―…
込み上げるのは寂しさと虚しさ

「お前も…僕の側にはいないのに…」

出会ってしまった
バルバトスを追いかけて向かった18年前のあの場所―…ダイクロフトで

「…僕は…っ…!」

後悔などしないと誓ったではないか
そう思う胸の内に、じんわりと広がってゆく黒くて大きな闇

「………」

チラリと振り返って眠るカイルを認識すれば、何故かその姿が無性に勘に障る

アイツと同じ姿をしているのに…
お前は僕の心を満たしてはくれない

「…全く同じ人間など、存在しない…」

そんな簡単な事、考えるまでもなく理解している、分かっているのに
ムカムカする
どうしようもなく吐き気がして

確かに…旅の始めはカイルに惹かれたかもしれない
だが、やはりスタンとは違っていた

…そしてジューダスはおかしくなっていった

…こんなにも、自分はスタンに依存していたのか
あんなにもスタンを愛して、そして僕を愛してもらった
なのに何故、マリアンを選んでしまい、アイツを裏切ってしまったのか

「……裏切らずに…済む事も…」

心に浮かび上がる考えに、ジューダスは拳を強く握り締める

こんな事を望むのは間違っている
僕にそんな資格はない

…だが、黒い考えは拭いきれず

「僕は…壊れているのかもな…」

仮面の下で呟いたその口を―…
皮肉なまでに歪ませ、ジューダスは笑っていた

「僕はお前の元へ戻ってみせる…」

そのための手段も、ほとんど手に入れたも同然だ
あと必要なのは、自らの心一つだけだった
渦巻く闇を、なけなしの理性が抑え付けようとしてはいたが

「だが…それもどうでもいい事だ」

スタンに出会い
シャルティエを失って…
ジューダスの心は音を立てて壊れた

「僕にはコイツらの未来がどうなろうと関係ない。本来ならば、関わる必要すらないはずだ」

ククッ…と、喉の奥から耐えきれずに笑いが込み上げてくる

何も…悩む必要などなかったではないか

手を伸ばせばそこに
すぐ目の前に、強く望むものがあるのだから

「…今度こそ僕は…手に入れてみせる」

自分の人生を
自分の望むものを

まさか神さえも、こんな結末は予想していなかっただろう

「思い上がった神ほどくだらない存在はないが…―僕を生き返らせた事だけは感謝してやろう」

ゆっくりと、まるで闇に溶け込むかのような動きでジューダスは立ち上がり、焚き火から離れると
眠る仲間の元へ

闇を背負った笑みを浮かべて歩いて行った…
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