頂き&捧げ小説☆
□New World
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◆◇◆◇◆
以前、僕はお前にこう告げた
『そのうち天上世界を案内してやる』…と
…ハロルドの手出しとお前の足の怪我もあり、先送りになっていた話ではあるが…
―…何となく僕の気が向いただけだ
…別にそれ以外の理由などない!
絶対に―……などではないからな!
……
…『案内』してやる
この、天上世界を
◆◇◆◇◆
「…ほ…ホントに!?嘘じゃない!?」
「…こんなくだらない嘘をついてどうする。嫌なら、この話はなかった事にするが?」
怪我の療養中のため、食堂ではなくベッドの上で朝食のパンを頬張っていたスタンは、いきなり室内に入って来たリオンからの突然の申し出に顔を輝かせ、そして慌てて首を左右にプルプルと振った
「嫌なんかじゃないよ!嬉しいって!」
「そうか」
天上世界を案内してやる
どうやらそれは突然の話過ぎて、スタンの頭では反応が遅れたらしいが…
もはやパンを食べる事すら忘れ、今は念願の外出に想いを膨らませているようであった
「足に痛みはないな?」
「もう平気!」
「ならば午前10時に迎えに来る。準備して待っていろ」
「わかった!」
現在の時間は午前8時半頃
まだ予定まで1時間以上もあるのに、準備のためだと言って急いで朝食を口に詰め込み始めるスタン
その姿はまるで―…
『遠足当日の子供そのものだな』
『でも、そこがスタンさんらしさでしょう?』
ディムロスはベッドサイドのテーブルの上で
シャルティエはリオンの腰に携えられて
それぞれが和やかに喋っていると、リオンの思いがけない言葉が二人を襲った
「…一つ言い忘れていたが、今回お前達を共に連れて行くつもりはない」
『えぇっ!?坊っちゃん、そんなぁ…!』
『な…何故だ!』
…どうやらどちらも共に行く気満々だったようだ
だが、その目論見は外れてしまった
なのでリオンの言葉を聞いた途端に、剣の身でありながら今にも跳び上がらん勢いで文句を言い出し始めたのだ
そんなソーディアンの二人に対して呆れの溜め息を吐くと、リオンは冷めた視線を投げつつ…
「…地上人がソーディアンを携えて呑気に歩いてみろ。目立って仕方がない上に、下手をすればミクトランに内通される恐れもあるんだ。…それぐらい考えろ、愚か者」
『あ…』
『む…』
「………」
すっかりその事を失念していたらしいシャルティエとディムロスの能天気さに、リオンは肩を落とすと再び深い溜め息を吐いたのだった
それから時間は過ぎ、リオンとの約束の15分前になった頃―…
「スタン!どーせ暇っしょ?ちょっち実験に協力して―…て…ありゃ?」
「あ、おはよ!ハロルド!」
ぐふふ♪
と不穏な笑い声と共に、部屋の扉を開け放ったハロルドが見たものは―…
リオンに新調してもらった上着を来て
リオンが同じ仕様で作ってくれた、真新しいブーツを履いて
待ち切れずに瞳を輝かせながらベッドに腰掛け、ソワソワと落ち着かない様子のスタンの姿であった
「…どしたの?そのカッコ」
「え?どっかおかしい?着る向き間違えたのかなー…?」
「………」
見事なスタンのボケっぷりに思わず半眼になってしまうハロルドだったが、気を取り直すと今度はディムロスに質問の矛先を向け、ジリジリと詰め寄ってゆく
「…さぁ吐きなさい。側にいたアンタなら何か知ってるっしょ?アタシを除け者にして、何オモシロそーな事企んでるわけ?…言わなきゃバラしちゃうわよん♪」
『ま…待て!待たぬかっ!別に隠すような事はない―…っぎゃあぁぁぁ!』
あぁ、哀れディムロス
…そして悲鳴が響き渡ってから数分後
「ふぅん。リオンが天上世界の案内役をするって言ってんのね」
『そっ…そうだ…!』
危うく分解されそうになりつつも何とか説明を終えたディムロスは、酷くグッタリとした声で
それとは裏腹に、彼から手を離したハロルドは顎に手を当て…
「案内…か」
女の勘というものが働いたのか、口元に意味深な笑みを浮かべた
…間違いなくこれは何か企んでいる
「…傷も癒えた事だし、外出は大いに結構なんだけれど…地上の民が天上世界を出歩く際に、一つ決まり事があんのよ。勿論―…守ってくれるわよねぇ?」
「…はぃ…」
この状態のハロルド相手に、誰が『いいえ』などと言えるのか
とてつもなく嫌な予感に、スタンは頬を引きつらせたのだった