頂き&捧げ小説☆

□気分はいつでも新婚旅行!
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□■□■□


朝食、というには少し遅い時間
とある街のとある宿屋の食堂にて


「はいっ。アーンして」

「………」

「アーンだってば、アーン。零れちゃうだろ。ほら、早く」

「……………」

しかしそう言われている人物は、返事どころか口を開けようともしないで、顔を逸らしている


…もしかして、『アーン』の意味を知らないのかな
それとも恥ずかしいのかなぁ


テーブルに頬杖を付きつつ、もう片方の手でスープを掬ったスプーンを持ち上げながらそんな風に呑気な事を考えているのは
不思議そうに小首を捻り、長い鮮やかな金の髪を持つ青年、スタン

そして新妻のように献身的に世話をしてくれるその姿を横目で見ながら、隣に座るリオンは情けなく弛みそうになる頬を幸せいっぱいな表情で必死に抑えているのだった


□■□■□


―…事の発端はその日の早朝

いつものようにすがすがしい朝を迎え、カーテンの隙間から差し込む陽の光にリオンは薄く目を開き

「………」

そして隣にいる人物を認識すると、フ…と目付きを和らげてその愛しい身体をそっと背後から抱き締めた
すると頬をくすぐるのは、太陽と同じ色の柔らかな金の髪

「…朝だ。起きろ、スタン」

「ぅ…〜ん…」

寝起きが最悪的なのを良く知っているため、この程度の呼び掛けで目覚めるとは到底思っていないのだが…
こうも無防備な姿を晒されては、ちょっかいを出さずにいられない

「起きろと言っている。また寝坊するつもりか?」

「…んっ…ゃ…」

ますます強く身体を抱き寄せれば、何も身に付けていない互いの素肌が密着する
そして戯れ混じりに髪の隙間から覗く耳に噛み付けば、洩れたのは鼻にかかる甘い声

「……仕方ないな」

とてもじゃないが、こんな顔は他の仲間に見せられない
リオンはそのぐらいデレッと崩れた表情になると、名残惜しそうに何度もスタンの頬や目蓋へ唇を押し付けて
それからようやく身体を抱き締めていた腕を引き抜き、ベッドの上に起き上がった

「……?」

すると、どうだろう
何だかハッキリとは分からないのだが、リオンは自身の身体のどこかに異変を感じたのだ
普段とは何かが確実に違う感覚

「……寝起きのせいか」

しかしそれを、まだ身体が覚醒しきってないせいだと見当をつけて
シャワーを浴びるべくリオンは何も身に付けていない格好のまま、部屋に備え付けのバスルームへと姿を消して行った



―…それから数十分ほどした後に

『おはようございます、坊っちゃん』

「あぁ」

シャワーも浴びたし、髪も乾かした
そうしていつもの服にリオンが袖を通していると、テーブル上にいるシャルティエが機能停止から目覚め、朝の挨拶を告げてくる
ちなみに、隣にいるディムロスはまだ機能停止から目覚めてはいない

…何故ソーディアンの二人がそんな事をしているかと言うと…

マスターの仲睦まじい様を邪魔しないように、である
いやむしろディムロスはそれについて行けず、機能停止という名の現実逃避なのだけれども

しばらく放っておけば勝手に復活してくると知っているリオンは、そのまま金具にマントを挟み終え…

『そろそろ朝食の時間になりますね。早くスタンさんを起こしましょうか』

「そうだな」

毎朝のお決まりな会話をしながら、腰に携えるためシャルティエに手を伸ばした

―…のだが


ガシャン

「………」

『ぼ…坊っちゃん…?』

確かにシャルティエを右手で掴んだはずなのに、それはリオンの手から滑り落ちてテーブル上へと落下し音を立てる
普段ではまずあり得ない失態にシャルティエは驚いた声を上げ、リオンはまじまじと自身の右手を見つめていた

「何だ…?」

そこにきてようやく気付く
右手―…正しくは右肘から下の感覚が、ほとんど無くなっている事に

「馬鹿な…!」

再度シャルティエに向かい手を伸ばすが、結果はやはり同じで
必死に掴もうと動作を起こしているのに、どう足掻いても思う通りに指先は動いてくれなかった
そのため、リオンの指は虚しく宙を掻くだけ

『どっ…どうされたんですか!?』

「僕が知るか!」

思わず叫んでしまうほど、二人は取り乱してしまったが

『…とにかくスタンさんを起こし、食堂へ行きましょう。その間に治るかもしれません』

このまま騒いでても何も解決しない
前向きに考えるべく、シャルティエは先を促したのだった
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