Tales of Rebell
□〜歯車〜 閑話休題
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「…地上軍第1師団の師団長―…中将という位にいた男だ。その責任感と意思の強さはどれ程のものだっただろうな」
その堅牢さ故に、彼はどうしようもなくなってしまったのだろう
千年を経た今でも、その後悔と自己嫌悪を
そして深い悲しみから抜け出せず…
『確証なんてありませんが―…スタンさん。貴方なら彼を救ってくれそうな気がするんです』
「おっ…俺が!?」
そんな重要な話を急に振られても!
思わずベッドの上で飛び上がり、金髪を乱しつつブンブンと激しく頭を左右に振る
「ムリっ…!ムリだよ!だって俺はそんな…」
特別な力があるわけでもない
知識だって全然ない
何も…何も知らなかったのに―…!
「俺は…!」
『安心して下さい。そんな、いきなり成果を求めるような期待なんてしてません。ゆっくりで構わないんですから』
早とちりした事をクスクス笑われてしまうのはイヤだったけど、少しでも役に立てそうな事があるというのが凄く嬉しかった
だからシャルティエの言葉に、スタンが思わず表情を綻ばせかけたところ―…
「つまりは…貴様の単純かつ脳天気でお気楽な性質をそのまま、奴にぶつけてやればいい。アイツも中将だ何だと言われていたみたいだが…結局は軍隊の直情馬鹿には違いないんだ。熱血同士気も合うだろう。平和への思いを存分に語ってやるといい」
『坊っちゃん…。それは誉めてらっしゃるのか、けなしておられるのかわかりません…』
呆れたようにシャルティエはリオンにツッコミを入れると、抑えきれない大きな笑いを響かせた
…『あの事』があってから、坊っちゃんはずっと感情を殺していましたよね
それが…スタンさんが天上世界にこられて間もないですのに…こんなにも―…
「何がおかしい。…先程から随分と機嫌がいいみたいだな、シャル」
『坊っちゃんこそ』
貴方がこれだけ饒舌に話し、悪態を吐くなんて久しぶりですから
「…………ふん」
シャルティエの言葉に自分でも思うところがあったのか…腕を組み直して鼻を鳴らすと、リオンはぶすっとした表情のままさらに眉間のシワを深くした
「あ…あのさぁ、リオン…」
「…何だ」
そんな二人(というか一人と剣)の会話に付いてこれなかったスタンは、恐る恐る右手を挙手の形にするとキョトンとした瞳のまま、首を傾げ…
「その…ソーディアンの名前を教えてくれないか?俺、会う時のために色々知っておきたいんだ」
ニッコリと、今まで見たどの表情よりも柔らかく…そして甘く、スタンは微笑みを浮かべたのだ
疑心も警戒心も何もない、純粋なままの眼差しが期待いっぱいにリオンを捉えて
「―…っ!」
そんなスタンの様に、一瞬だけリオンは息を呑むと―…
「……ふ…ふん。貴様もソーディアン・マスターになるための自覚が出てきたようだな…!」
「?」
わざと乱暴な口調にしたのは、自身の動揺を隠すため
咳払いをしたのは、弛みそうになった口元を誤魔化すため
…大体…おかしいだろう?
この僕が…!…男相手にこんなにも動揺するなど!
ありえん…!
きっと今は耳まで真っ赤になっている事だろう
おかしいくらいに顔が熱い
「リオン?」
「…ディムロスだ」
「……はい?」
「ソーディアン・ディムロス!貴様が知りたいと言ったんだろう!」
「あぁあぁぁっ!はいっ!ごめん!ありがとうー!」
…一体リオンに何があったというのか
いきなり怒り出し、今にもシャルティエを抜かん剣幕なのだから
「…っ!僕は絶対に認めなどしないからな!」
「なっ…何がぁぁぁ!?」
絶叫するリオンにつられて叫ぶスタン
『…坊っちゃんてば…』
何となく理由を察知してしまったシャルティエは、今度こそ聞こえないように小さく笑うと、二人の邪魔をしないようそっと喧騒に剣である身を委ねて黙り込んだ
―…運命という名の元、出会うべくして出会った二つの歯車
この先、如何なる運命が待ち構えているのかなど予測もつかないが―…
…願わくば彼等が良き仲間に
相棒に
そして
―…友と呼べるものになるよう
「大体っ…貴様は脳天気すぎるんだ!田舎者!」
「何だよそれ!田舎者って言うなー!」
人の身であった時の触れ合える悦びを
どうかこの若きマスター達に
『…でもまあ…喧嘩はなるべく控えて下さいね』
溜め息と共に洩れたシャルティエの呟きは二人の怒声に掻き消されて
届く事はなかったのだけれども…
〜歯車〜 了