Tales of Rebell
□〜家族〜
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―…一方、その頃
「あ〜…もう!疲れたっ!…目的はあるくせにそれのアテがない旅って、ホント疲れるわ!」
口では怒ったような物言いをしながらも、足取りは軽く街中を歩く一人の人物
少女と呼ぶには大人びていて
かといって女性と呼ぶにはまだ幼い
そんな脆さを秘めながら、それを上回る生命力が溢れている姿だった
「ここに帰って来るのも半月ぶりくらいじゃない?アタシの朗報を聞いた後の、無様に驚くあのクソガキの顔が目に浮かぶってものよ…!」
『…この役目は競争ではないのよ。それにあの子が「そう」だと、まだ完全に決まったわけではないわ』
「分かってるって。そのために、こうして一回帰ってきたんじゃない」
フンフン♪と鼻歌混じりにそんな会話を繰り広げているが…
彼女の隣や前後を歩く人物は誰もいない
…一体誰と会話をしているというのだろう
「さぁ〜って…と」
そうこうしているうちに彼女の足は街外れのちょっとした高台へと向かい、ザッと砂煙を上げて一際立派な門の前で立ち止まってから
「―…帰ってきたわよ。この…ルーティ様がね!」
そうして腰に手を当て、高らかに叫んだのだった
□■□■□
つい先日までディムロスが封印されていた地下の場に、刃同士が激しくぶつかり合う音が響く
そしてその音の発生源こそが、リオンとスタンの二人であった
ちなみにハロルドは研究室にて、この様子のモニタリング中
訓練をする二人は防具の類いを何も身に付けてはいないのに、手にしているのは剥き身のソーディアン
リオン曰く『精神を鍛えるのと、訓練に緊迫感を持たせるのにちょうどいい仕様』らしいのだが…
すでにそれは、訓練という名の一瞬の気も抜けない程の激しい攻防と化している
…いや、もはや攻防にすらなってはいない
何故ならスタンは防御をするだけで手一杯で、攻撃に回る事が出来ないでいるのだから
「どうした!防御だけで僕に勝てると思っているのか!?」
「そんっ、な、事っ!ない、っけど!むっ―…無理、だっ、て!」
ギィン!
振り下ろされたシャルティエを、ディムロスの刃を使って鼻先寸前で何とか受け止める
だが、安心している暇はなかった
…気付けばリオンの動きはすでに次の攻撃に向け、瞬時に立て直されていたのだ
「何度も言わせるな!相手の攻撃を受け止めるだけが防御ではない!敵の動きを読み、受け流し、その動作から攻撃に転じてみせろ!」
「くっ……うぅ〜!」
言われている事はわかるのだけど、それを実践するのは非常に難しい
力と持久力という点だけならば、スタンはリオンを上回っているのだが…
リオンの動きはとにかく素早い
パワーの無さを補うためであろうが、速い上に攻撃の手数が多いためスタンにはそれを捌ききれないのである
さらにその中で攻撃を仕掛けてこいだなんて…
「無茶苦茶だぁぁぁっ!」
闇雲にディムロスを振り回してみても、当然リオンに当たるはずもない
紙一重の位置で楽々かわされてしまうと一気に間合いを詰められ、シャルティエの柄で脇腹を強く突かれたスタンは痛みに膝を折った
「っ…くそぉ…!」
「…立て。次は貴様から打ち込んでこい。僕が防御に回ってやる」
このままでは一方的すぎて、訓練も何もあったものではない
溜め息混じりにリオンはそう告げスタンから距離を取ると、防御の姿勢で攻撃に備える
…しかしそれは微塵の隙もない構え
スタンがどんな攻撃を繰り出したところで簡単にかわされ、反撃を喰らう事は間違いないだろう
「…どうしたらいいんだろ。というか、リオンが強過ぎるんだよなぁ…」
ディムロスを握り直ししばらくリオンの様子を見るが、これっぽっちでも突破口があるとは思えない
リオンから教わった『魔神剣』を使ったところで、それも見透かされてる気がするし
『…つまりは、あの小僧の意表を突けば良いのだな?』
「ディムロス…!何かいい考えでもあるのか!?」
『無いわけではないぞ』
うんうんとスタンが悩み唸っていれば、今まで黙っていたディムロスが唐突に口を開いてきて…
しかも珍しく助言と助力をくれるというのだ
「何なに!?どんな方法!?」
『とりあえず落ち着け。…企みがバレては意味がなくなるであろうが』
そう言ってスタンを諭したディムロスの声にどこか黒い気配が混ざっていた事を、当然ながらリオンは知るはずもなかった