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□真実と幻想と
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□■□■□

激しく流れ出してきた海水
それは鉄砲水となってスタン達の体を飲み込むと

「リオ――ン!!」

悲痛に叫ぶスタンの声だけを残し、一瞬にしてその姿を拐っていった

…その後に残されたのは、リオンとシャルティエのみ

「僕は…っ…」

『坊っちゃん!?』

バシャン!

足から力が抜けガクンと膝が曲がり、大きく水音を立ててリオンは冷たい洞窟内の岩に背を預けて転ぶように座り込んでしまう

『坊っちゃん…血が…!』

ジクジクと痛む脇腹
傷口を押さえる手を伝う生温い液体の感触

これが『死』なのだと―…
逃れられない、運命

「…無様だな」

「なっ…に…!?」

濁流音に混ざりいきなり耳に響いてきた、まるで自分を嘲笑うかのような声
そして失血により霞みがかってきたリオンの視界に、フワリとした光と何者かの影がかかった

「…何者だ…貴様っ…!」

いきなり現れた突然の来訪者に、リオンは最後の力を振り絞ってシャルティエを握る腕を持ち上げる

…自分の周り以外は濁流がぶつかり合い、荒れ狂う状況
そんな中、光と共にこいつらは現れた
…得体の知れない者に、恐怖しないはずがないのだ

「ジューダス…あまり時間はないわ」

「わかっている」

『ジューダス』
そう呼ばれた黒い服に不気味な骨の仮面を被った少年は簡素に答えると、隣にいる華奢な少女の体を乱暴に押して後退させた

そして

『坊っちゃん!』

「シャル―…っ!」

いきなりリオンの手からシャルティエを奪い取り、目を見開くリオンの鼻先へとその切っ先を突き付けたのだ

それに一番驚いたのは、少女だった

「ジューダス!過去には干渉しないって約束だったじゃない!」

酷く慌てた様子で隣に戻ってくると、少女―…リアラはシャルティエを握る腕を掴み、必死に声を荒げる
…だが、ジューダスにはそれを聞く様子はなく、あくまでも冷たい瞳をリオンへ向けていた

「貴様…スタンの元へ戻りたいか?」

「何っ…!?」

「ジューダス!」

淡々とした口調に、驚愕と非難の声が交互に上がる
特にリアラの顔はさらに蒼白になり、細い肩が驚愕から小刻に震えていた

「ジューダス…貴方…何をするつもりなの…!?」

あの時―…ジューダスは眠るリアラを起こすと、18年前に
自分が死んだあの場所へ連れて行くように強制してきた

理由も目的もわからなかったので始めは断ったリアラだったが…
仮面の奥の瞳が酷く冷たく凍りついている事に恐怖し、過去には干渉しないという約束で時を遡った

それが―…

間違いなくジューダスは過去を改変しようとしている

「やめてジューダス!彼を助けてしまったら…未来が!カイル達までもが―…」

「違うな」

リアラの叫びに被せるように告げられた、短く冷たい一言
その言葉の後に、仮面の奥の唇を吊り上げ―…

「ぐあぁぁっ!?」

「っ―…きゃあぁぁぁっ!?」

力なく座り込むリオンの首筋を―…

シャルティエで

深々と切り裂いたのだ―…!

「リアラ……間違えるな。僕はコイツを助けるつもりでここに来たわけではない」

感情も何もない、淡々としたジューダスの声
目の前には、全身血に濡れて完全に事切れたリオンの姿

「あ…ぁ…っ」

「コイツに―…僕に生きていられると困るんだ」

ジューダスは…何を言っているのか
そして何をしようとしているのか

「これで…僕は戻る事が出来る」

「…ま…さか…貴方っ…!?」

恍惚としたジューダスの声
その瞬間リアラの脳裏に浮かんだのは、最悪の結末
…そんな事をすれば、守るために戦ってきた未来全てが

なかった事になる

完全に改変されてしまう

「そんな事―…させないっ!」

血に濡れた刃を持つジューダスを止めるため、リアラはペンダントに手を触れた
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