鋼/連載罪と恋の狭間で
□序章
1ページ/1ページ
序章
真夜中
月明かりも無く空も全て、空気さえも黒く塗り潰されたような夜。
そんな闇に沈んだ裏通りを見下ろすさびれ、くすんだビルの上。
一人、闇に溶け込むように黒いコートに身を包んだ少年がいた。
その少年が握るは、その小柄な体に不釣り合いな銀色のライフル。
少年はやがて膝をつきその愛用ライフルを静かに肩にかつぐ。
遥かビルの下に表れた今日の¨標的(ターゲット)¨に向けて、彼は無言で銃口を向ける。
風が強い。
彼の漆黒のコートがなびく。
ばさり、と少年の髪がコートの下から姿を現した。
風になびくそれは
金色。
すぅ─…とスコープごしに同じ金の目が細くなる。
途端に、
風が消えた。
まるで計ったかのように。
金と黒の少年はまるで風が止まるのをわかっていたかのように、
少しの躊躇もなく
引き金をひいた。
サイレンサーつきのライフルは無音。
その無音のなか、確かに一つの命が消えた。
外す事はない。
躊躇もない。
そこに感情もない。
ただ、示された標的を的確に消すだけ。
悪いね、と少年はライフルをケースにしまいながら呟いた。
戻ってきた風に金色の髪がなびく。
少年は縛っていない金色の髪を隠すように、深くフードを被る。
そしてコートの中にライフルを隠すと
こつり、というブーツの音と共に少年はビルから姿を消した。
そして狙撃場として使われたビルの屋上は、また何も無かったかのように静けさを取り戻していた。
少年のコードはsniperNo.002。
英語と数字で作られた名前のコードはただ指令の通りに命を奪う事に戸惑いがない。
今世間を騒がせる闇組織『F.I.N』の
二番手プロスナイパーである。
夜はまだ明けない。
闇をまとう一人の少年をかばうように。
彼の過去を隠すように。
彼の心を映し出すように。