オリジナル小説
□相対する者
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―静かなる街の一角にある廃ビルの中に二つの人影があった。
「…さぁて、観念してもらおうか」
一人は白髪混じりの髪によれよれのロングコートを着た中年の男だ。
「…嫌だと言ったら?」
もう片方はオールバックに整った顔立ちで、黒いスーツという出で立ちの青年。
双方は睨み合ったまま動こうとしない。少し時間が経ったあとに青年が口を開く。
「なぁ、後藤さん。なぜあなたは俺を追うんです?」
「んなもん、お前さんとこが麻薬取引やら売春やらやってるからだろうが。」
少し怒りを含めて後藤は言った。
「それくらい他の組でもやってるだろうに。」
「お上からお前さんとこの―今井組追えって言われてんだよ。」
後藤は短いため息をついた。今井は口角を吊り上げて言う。
「今の職場が嫌ならうちに来ませんか?」
相手の刑事は露骨に嫌なそうな顔をした。
「誰が行くもんかね。」
「あなたの様な人が来ればうちの組もマシになるかもしれないのに…残念だ。」
途端に後藤の後頭部に何かが押し付けられる。―拳銃だ。
「…なるほど。時間稼ぎだったか。」
後藤はチッと舌打ちして今井を睨みつける。
「若、外に車待たせてやすぜ。」
拳銃を突き付けたまま今井の子分が言った。
「そうゆう訳で失礼しますよ。後藤刑事。」
今井は後藤を横切って子分と一緒に廃ビルから去って行った―。