DRRR!!

□君にただ会いたくて
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朝起きて、外を見ると雨が降っていた。
バケツをひっくり返したような雨。

「・・・あれ」

急に名無しさんの顔が浮かんだ。
そういえば今日は俺の家に来るはず。
もう一度窓の外を見て、携帯を手に取る。

「・・・あ、もしもーし。名無しさん?元気?」
「元気かって・・・まだ朝だよ、7時」
「あぁ、うん。それはそうと今日どうするの?」

名無しさんはあー、と溜息混じりに声をこぼした。
少し俺の携帯を持つ手が震えた。

「土砂降りだけど、来れるんなら・・・」
「うーん、今日はやめとこうかな」

案外さっぱりとした物言いに肩を落とす。
同時に、何とも言えない気持ちになった。

「あ、そう・・・」
「ごめんね、今度行くからさー」

軽快な名無しさんの笑い声を聞きながらコートを羽織った。

「そりゃそうだ、来てくれないと困るよ」
「何でよ・・・あれ?臨也今外にいるの?」
「え?あぁ、うん」
「何処か出掛けるの?」
「そう、名無しさんが来ないから仕事する事にしたよ」
「そう、なんだ」

何となくトーンが下がった名無しさんの返事を流す。

「それじゃ、またね」
「あ、うん・・・」

携帯を切ると、もう雨の音しかしなかった。





最後に会ったのは3日前で、そんな昔のことじゃない。
でも会いたい時に名無しさんに会えないのはもやもやする。
今日がどんなに待ち遠しかったことか。
やっと君の笑顔が見れると思ったのに、君がいないなんて。
そんなのってないよね。





気付くと名無しさんの家の前に来ていた。
気付くとっていうか、初めからそのつもりではいたんだけど。
インターホンを鳴らすと、しばらくして名無しさんの声がした。

「はい」
「奈倉です」
「・・・え」
「すーっといなくなりたい奈倉です」

すぐにドアが勢いよく開いた。
目を丸くした彼女がそこにいたのは予想通りで。

「何、やってんの・・・し、仕事は?」
「え?何の話?てか奈倉ネタには触れないの?」
「え!?だってさっき電話で・・・」
「もういいや、お邪魔しマース」
「ちょっと」

名無しさんが俺が家に入るのを制止する。

「へ、部屋散らかってるから・・・」
「あぁ・・・それは大丈夫、ココに来たってことはそれなりの覚悟はして来たってことだから」
「それどういう意味よ」
「そのままだよ。名無しさん、外は寒いよ。土砂降りだ」

名無しさんは仕方ないと言わんばかりの表情で俺を部屋に招き入れた。
名無しさんが靴を脱ごうと後ろを向いた時、そっと抱きしめた。

「・・・な、何!?」
「会いたかった」
「え・・・?」
「名無しさんに、会いたかった」
「臨也・・・」
「名無しさんは?俺ばっかり名無しさんに会いたかったの?」
「・・・私も・・・会いたかったの。臨也に」
「何、泣いてるの?」
「泣いてない・・・」
「・・・そう」

狭い玄関で、少しだけ名無しさんと雨の匂いがした。


君にただ会いたくて
(でもわざわざ新宿から来てくれたの?)
(名無しさんがわざわざ新宿に来てくれなかったからね)
(何その嫌味な言い方。ちょっとウザイ)
(え?それ褒め言葉)

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