DRRR!!

□ごめんね
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彼はとても怒っていた。
だけど、そう言う私も怒っていた。

「あれだけシズちゃんには近付くなって言ったでしょ?」
「仕方ないでしょー学校が池袋なんだから。道で会ったら知らんぷりできないよ」
「そんなの知らんぷりするに決まってるだろ、何をどう間違えたら挨拶しに行くのさ」
「あーもーうるさいなぁ、人の交友関係まで口出さないでよ!」
「交友関係?君、シズちゃんと自分が親しい仲だとでも思ってるわけ?」
「そこそこ親しいわよ、だって私は臨也よりも池袋にいる時間長いし?臨也と違って憎まれたりしてないしね!」
「ほーう。理解できないね、名無しさんよくあんなのと一緒に居れたもんだね?」
「は?当たり前でしょ!?シズちゃんはねぇ、臨也と違って優しいし男らしいし強いんだから!」

すると、今までポンポン言い返していた臨也が口を閉じる。
臨也はくるりと私に背を向けて、何も言わずにPCの方へ歩いて行った。
次の言葉が来ると思ってしばらく身構えていたが、それきり臨也は何も言わなかった。
ただいつも通りカタカタとキーボードを叩いて、仕事をしている。

「・・・ち、ちょっと臨也サン?何急に黙っちゃうの・・・?」
「・・・」

何となく分かっていたが、やっぱり返事は来なかった。
まるで私なんかいないかのようにいつも通り仕事を進めている。
キーボードの音だけが部屋に響く。
もう一度、頑張ってみる。

「臨也ってば・・・どうしたのよ急に」
「・・・」

シカト。
聞こえてないわけないのに、顔色一つ変えずにキーボードをカタカタ。
そのスピードが乱れることはなくカタカタ。
ずっとカタカタ。
まだカタカタ。
カタカタカタカタカタカタ・・・。

「・・・ねぇ!!臨也ってば!!無視しないでよ!!」

自分の体から出せる最大声量を叩き出した気がする。
あまりに広くて忘れる時があるが、ここは一応集合住宅だ。
そっと頭の中でその事を思い出して、妙な罪悪感でいっぱいになった。
そして当の臨也を見ると、背中を向けたまま手だけが止まっていた。
微動だにしない後ろ姿に若干恐怖を感じる。

「ご、ごめん・・・お、大きな声出して・・・」
「・・・」

臨也が突然椅子ごと向き直る。
そしてすぐに立ち上がると、そのままこっちに歩み寄った。
後退りするかどうか考えていると、手首を強く握られた。

「痛っ・・・」
「一体どういう了見なのかな・・・?」

臨也は大分静かに話し出した。
痛みをこらえて耳を傾ける。

「名無しさん、頭おかしいんじゃないの?」
「・・・え?」
「シカトくらい、したくなるよ。あんな事言われて」
「あ、あんな事って・・・」
「もう忘れちゃったわけ?ひどい人だね君も」
「ご、ごめん。分かってる・・・本当は・・・」
「別に分からなくてもいいよ」
「え?」

臨也は手を離すと、PCを消して部屋に入っていった。
少しの間固まっていたが、はっと我に返り臨也の部屋をノックする。

「い、臨也ー、は、入ってもいいっ?」
「・・・何それ」

ドアの向こうから声が聞こえた。
トゲトゲした声だ。

「・・・入っても、い、いい?」
「・・・入ってどうする気?」
「ど、どうする気・・・?えっと、まず話を・・・」
「話?さっきから何言ってんの?」
「え、えっと・・・」
「君の大声のせいで仕事も出来ないしさぁ、一人にして欲しいんだけど」
「う・・・」

悲しくなって、涙が勝手に溢れ出した。
ぽたぽたと涙が床に落ちる。
それを見つめながら、どうしたらいいのか分からなくなって、急に膝から力が抜けた。












「・・・ねぇ」

急に頭の上から臨也の声がした。
びっくりして顔を上げると、臨也がドアを半分開けて、そこから身を乗り出している。
涙で滲んで、表情はよく見えなかった。

「・・・これって俺が泣かしたってことになるの?」
「・・・え、や、ちがう・・・ごめ・・・」
「明らかにドアの向こうに気配はあるのに、一言も喋らないからさ。寂しくて死んじゃったのかと思ったら、何・・・めそめそ泣いてただけか」

臨也の顔が見れなくて下を向く。
床に溜まっていく涙が小さな水たまりを作ってしまいそうだった。

「ごめん」

呟くように臨也は言った。
そしてその場でしゃがみ込むと、私の顔を両手で持ち上げた。

「謝るよ、ごめん」
「い、いざや・・・」
「泣かしたことはね」
「へ・・・」
「名無しさんは3つ、俺に謝って。ね。はい、1つ目は?」
「・・・わざわざ・・・シズちゃんと仲良くした、こと・・・」
「うん・・・2つ目は?」
「お、大きな声・・・出したこと・・・」
「そうだね、じゃぁ3つ目は?」
「・・・い・・・ざや、と・・・う・・・」
「・・・名無しさん?ちゃんと言って」
「い、臨也と・・・シズちゃんを、比べたこと・・・」
「うん・・・そうだね」
「ご、ごめんなさいっ・・・」

臨也がぎゅっと私を抱きしめた。
臨也の匂いがして、また涙が溢れた。

「分からないなぁ、俺に嫌われるのがこんなに怖いくせに、名無しさんはいつも俺に嫌われようとしてるみたいで」
「そ、そんな事ないっ・・・」
「そんな事あるでしょ・・・俺はいつも名無しさんのこと見てるよ」
「・・・うっ・・・うっ・・・」
「構って欲しいなら、ちゃんと言わなきゃ。だって、名無しさんと仕事どっちが大切かって言ったら・・・当然名無しさんなんだからさ」

そう言うと、臨也は優しくキスをした。

「ん・・・」
「・・・ね、名無しさん」
「何・・・?」
「もう俺の部屋入ろうか?」
「・・・うん・・・」






ごめんね
(俺の方こそ、君を泣かして嫌われるのが怖かっただけ)

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