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□卒業
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「ねぇ静ちゃん、別れようか」
その日、あいつはなんでもないようにそう言った。
俺達の関係は不透明で、曖昧で、《付き合ってる》という表現は少し違和感を覚えた。
ただ、俺達にはお互いしかいなかっただけで。
毎日毎日喧嘩して、本気であいつを殺してやろうと思っていた。
本気だった。
ただ、涙を流して俺を嫌いだと云うあいつの唇を見つめる俺がいた。
そして大人になった俺達は、また以前のように喧嘩を繰り返した。
あいつは新宿が本拠地らしく、池袋に来たときに。
俺は、桜の下で聞いたあいつの言葉に対していつまでも怒っているのかもしれない。
俺達の関係は決して甘いものじゃなかった。
臨也は無駄に綺麗な顔で暴言を吐きつづけた。
俺は追い回しながらも、あいつの心の中のSOSを必死に聞こうとした。
あいつが望めば恋人らしいこともした。
自転車の後ろに乗せたり、池袋の人混みに紛れて指を絡めたり、それ以上も。
俺達は血まみれになりながら嫌いだと笑いあった。
それなりに幸せだった。
特に未練もない校舎を見上げた。風が強く吹き、桜が雪のように降っていた。
あいつの定位置にその姿は無く、今日でなにかが終わってしまったのだと特に感慨もなくその場を後にしようとした。
「ねえ静ちゃん」
見慣れた姿、聞き慣れた声。
桜にまみれた少し小さい頭を無性に愛おしく感じたのを覚えている。
「終わりにしよう」
臨也は張り付けた笑みをたたえていた。
「俺達はもう大人になったんだ。子供という大義名分に甘えられることができない」
俺にはあいつの言うことが理解できなかった。
「別れよう」
俺はただ間抜けにその場に立ち続けた。
臨也の黒い姿はいつのまにか桜の中に消えていった。