短編集
□1.5話
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『…う、ぁ…っ』
真夜中、隣で眠っているはずの少女の声で目が覚める。
時折苦しそうに息を吐きながら眠る姿に、恐らく傷が痛むのだろう…
起こしたら余計に痛みに苦しむと思い、月明かりの中起こさないように額の汗を優しく拭いてやると、熱が出てるようで体温が高かった。
『…おかあさん…っおいて、かないで…』
熱にうなされながら紡ぎ出された言葉に、彼女は夢を見ている事に気付いた。
月明かりに照らされた少女の閉じられた瞼から、キラリと光る物が流れる。
『…おに、ぃちゃん…っ、おねぇちゃっ…
…や、だ……ひとりに、しないで…っ』
「……っ」
涙を流しながら眠る姿に、胸の奥が締め付けられる。
泣けば更に熱が上がってしまう…そう思い、少女を起こしてやれば閉じられていた瞼はゆっくりと開いた。
『…おに、ぃちゃん……?
ひ、ぅっ…お兄、ちゃん…っうぅ…っ』
涙で潤んだ瞳が俺とかち合ったと思うと、少女は急にくしゃりと顔を歪ませながら泣き出した。
お兄ちゃん、お兄ちゃんと縋るように泣く姿に、彼女は今俺を実の兄と重なって見えているのだろう。
「ああ泣くなって…熱が上がっちゃう…」
夢から覚めた筈なのに泣き続ける彼女を泣き止ませようと頭を撫でてやるが一向に泣き止まない。
『…みんな、っ私を置いてった…お母さんも…お父さんも、皆っ…
お兄ちゃんも…振り向いて、くれなくてっ、…追いかけても全然届かなくて…っ』
少女のその言葉に、胸の奥がぎゅうと握り締められるように苦しくなる。
悪い夢を見たと言えども、今この少女が求めてる物は家族だ。
だけど、俺と彼女には何もない、他人…
でも、それでも、今彼女の目は俺を実の兄と重なって見えている。…だったら、
「…大丈夫、それは悪い夢だよ。
兄ちゃんがずっと傍にいるから、君はもうひとりじゃないよ」
見たこともないこの少女の兄を演じるように、未だ泣き続ける少女を慰める。
『ほんと…?』
「あぁ。君が離れていかない限り、俺はずっと君の傍にいるから…だから、笑って。」
潤んだ瞳で見上げる少女の濡れた頬を優しく拭いてやると、彼女は少しだけ照れ臭そうに笑った。
『うんっ…ありがとう、お兄ちゃん』
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