君に恋焦がれる
□寂しげな紅色
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寂しげな紅色
ぽつんと一人教室に座っている猿飛。
その横顔は寂しそうに窓から差し込む夕日に照らされて、綺麗だった。
夕日が、彼女の寂しさを彩っている。
「オイ猿。何してんだ、帰らねェの?」
俺がそう呼びかけると、特に反応するでもなくただ夕日を見つめていた。
「わかんないことがあるのよ。・・・忍のいろはにほへとちりぬるをわかよたれ・・・(以下略)の45ページが特に。」
ものすごい長いタイトルをすらっと言って見せ、黙りこくる。
「そーかよ、勝手に考えてろ。」
俺は教室に忘れ物を取りに来ただけで、特に気にすることもなかった。
・・・だが、好きな奴が悩んでるとなるとどんなことなのか気になり始める。
さりげなく机の中に忘れていた忍のいろ・・・(以下略)の45ページを開いてみると、何故か。
そこには単元名しか書いていない。(2.忍の心構え〜自心を滅せよ〜)
夕日があたって紅く色付くそのページを見つめ、眉をしかめる。
何か、違うことで悩んでいるんだろうか。
「猿、45ページって単元名しかねぇじゃねェの。」
「・・・そう。別にそこ考えてるわけじゃないから。」
わっけわかんねぇ・・・コイツ。
そん時の俺は素直じゃなかったし、好きな奴に優しくできるような奴でもなかった。
「意味わかんねェな。そんなんだから猿って馬鹿にされんだよ。」
猿飛の横顔に、ふっと影が降りた。
夕日が暮れはじめた。
彼女は俺の言葉に耳もくれず、ただ空を眺めていた。
「お前、猿って呼ばれて辛くねェのかよ。」
電気もついていない部屋、暮れはじめた夕日のせいで
表情はあまり見て取れない。
ただ、全てを悟ったような哀しい声でつぶやくように言った。
「別に・・・猿飛なんだから猿って呼べばいいのよ。気にならないし。」
本当は違うんだろうけど、猿飛は弱さを見せない奴だ。
女子が猿って言われて傷つかないはずがないから。
「・・・お前ってMなのか?」
「さぁ、そうなのかもね。」
猿飛は相変わらずそっけなく、俺を見ようともしなかった。
ただ、夜に近付いていく暗さが、猿飛の寂しさを一層引き立てている。
俺は、彼女に近付きたかった。
「・・・じゃあ、俺の言葉でお前が良がるのは癪だから俺ァお前の事をこれから猿飛って呼ぶ。いいな?」
何も言わない彼女。
でも俺は、少しだけ、彼女に近付いた気がした。
「じゃーなー。」
誰もいなくなった教室。
たった一人いなくなっただけでこんなにも寂しく感じる。
さっきまでそのたった一人がいた場所を見つめて、小さなため息をついた。
「別にあんたに何言われたって気持ち良くなんかないのよ。」
すっぽりと黒いベールに包まれた空。
彼女の頬だけに、紅い光が残っていた。