君に恋焦がれる
□パンジー
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ゆらゆら、
ふわふわ、
なににゆれてるの?
ゆらゆら
かぜにのってかおりがとどく
ふわふわ
ゆらゆら、ふわふわ、
淋しいんだよ
パンジー
「銀ちゃん、結核って何アルか?」
ぽつり、と呟けば銀ちゃんは私をふりむく。
ソファー越しに体をひねった姿を目に捉えて黙りこくった。
「お前、結核なんて難しいのよく覚えたな。・・・結核って言やァな、不治の病なんて言われてたな。でも今では薬さえありゃ治ることもあるらしい。」
天井の少し暗い電球を見つめて、どこで知ったのかわからないことをつらつらと話し出した。
「うつる病気でな、微熱やら、咳やら出るらしい。どうにかすりゃ治るくせに、たまに気まぐれで人の命を掻っ攫って行きやがる。うつるなよー。まだ銀さん生きたいからな。」
ははっ、と笑った銀ちゃんを見て、少し気分が落ち込んだ。
命を掻っ攫う、病気なんだ。
「死ぬってどういうこと?」
死ぬ、なんて言葉遠すぎてよく見えない。
今度は銀ちゃんはソファーに寝転がった。
目を瞑って、喋っていなければ寝ているんじゃないかと思う。
「死ぬっつうのは、その時点で今まで積み上げてきたもん全部消えちまうのよ。・・・少なくとも全ての可能性が閉ざされる。」
全てが消える、閉ざされる。
一言一言を胸に刻むたびに体がどんどんと重くなっていくようで、苦しくなっていく。
「もう会いたい人とも会えねーし、食いたいものも食えない。・・・会いたいとかいうことも考えなくなるんだろうな。」
じゃああいつは、私を忘れるの?
あいつは、私の世界から消えていくの?
「あー、ストップストップ。今日は無しな、それ。」
掌を私のほうに向けて、いつも通りに全てのものに興味が無いような目で私を止めた。
せっかく傘を構えたのに、
「何アルか?今更怖気づいて負けを認めたカ?はっはっはー!これから私の事をチャイナ様と呼ぶヨロシ!」
思いっきり笑い飛ばしてやったら、総悟は少し首を傾けた。
「違ぇ、そんなことじゃねェよ。俺ァお前に負け認めるくらいなら土方さんの特製料理毎日食ってやらぁ。」
「じゃあ何ネ。」
なんだか違う様子に傘をだらりと下げると、奴は重苦しいため息をついた。
「俺ァもうお前と会えねェかもしんねーんだ。最後が喧嘩なんざ嫌だろィ。そーいうことでィ。」
じゃ、と言い残してあいつは来た道を戻り始める。
もう会えないって?
最後って?
「どーゆうことネ!!ちゃんと説明してから帰れヨ!」
駆け出した私は、総悟の前に回りこんだ。
叫んだ頬が引きつっているのが自分でもわかる。
あいつは私を見下して、呟いた。
「結核なんでィ。」
「結核って何ヨ!」
あいつは止めていた足を動かし始め、私の横を通って行った。
「病気だ。あとは旦那にでも聞きな。」
言葉が出なくなった私にわかったことは、結核というのが恐いものだということ、もう総悟は戻ってこないのかも、ということ。