君に恋焦がれる
□銀木犀の、
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「チャイナ娘、昨日・・・総悟が、 死んだ。」
その瞬間私の心臓は跳ねるように躍動した。
総悟と一緒にいるときのような心地良いものじゃない、
何の音も受け付けなくなった耳に、玄関で傘の落ちるかわいた音が響いた。
この心音は、
苦 し す ぎ る
銀木犀の、
するりと靴を脱いで、すっかり慣れた姉御の家に入る。
一声かけると、姉御の声がした。
廊下を駆ける音がして、ニコニコと愛想を振りまく顔が現れた。
まるで、私のお姉ちゃんみたい。
お兄ちゃんはいたけど、小さいとき本当はお姉ちゃんが欲しかったのを思い出す。
「あら神楽ちゃん、一人でどうしたの?」
こっちにいらっしゃい、と言って座敷に通された。
新しい畳の匂いがして、それから風のにおいがした。
座敷にある小さな棚の上にはひとつの写真。
見たことのないものだったので少し覗き込むと、いつかのお花見のときの写真だった。
いつ撮ったのか、酒を飲んでいる真選組の隊士や、語り合ってるジミーと新八やノックダウンされて転がっているゴリラが見えた。
それから、奥には私と総悟。
これは確かお弁当の中に入っていた最後の唐揚げを取り合っていた時のだ。
立ったままその写真を見つめる私の頭を姉御が撫でる。
やるせない気分になって唇をきつく噛んだ。
「何か意味があるんでしょ?私のところにわざわざ一人で来たのは。」
あれ、から夏が過ぎ、もう秋の初め。
「姉御、お墓参りに行きたいアル。」
消えていくように囁くと、姉御はキュ、と私を抱きしめる。
耳元でうん、行こうね、と聞こえた。
誰の、なんて野暮なことは聞かれなかった。
柄杓と、桶と、それからお花と。
それだけを持って墓地に向かった。
寺の横を通り、少しの小道を抜けるとたくさんの墓標がある。
その雑多な中のひとつに総悟が隠れているのだ。
墓地の中には黒い人影が見える。
真選組の隊士だった。
丁度帰るところだったようで、姉御と私に会釈した。
淋しい思いで少し視線を下げると、苦しくなった。
そして、ついさっきまで隊士がいた場所に行くと、予想通りそこに総悟はいた。
沖田家之墓
たったそれだけ書いてある、黒い石の中に彼は静かに眠っていた。
総悟が酷くちっぽけなものに思えてしまう。
「神楽ちゃん、水かけてあげて。」
優しい声が聞こえて、桶と柄杓を渡された。
ちゃぷ、と水の音。
柄杓で水をすくい、静かに墓にかける単純作業。
それでも私にはとても難しいことだった。
水をかけるたびに、流れるようにして思い出が溢れてくる。