君に恋焦がれる
□Shall we dance?
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ドタドタ、と足を踏み鳴らして教室のドアをくぐり、がたがたに曲がりまくっている机の中をかいくぐり、自分の席へ戻った。
どん、とわざと音がするようにイスに座ると、隣で土方の携帯を勝手にいじっていた沖田がダルそうに机に預けた体を起こす。
携帯がメール受信の音を高らかに鳴り響かせ、沖田はその画面をしばし見つめ、それから私を見た。
「初めましてトシさん。私、19歳のみぃちゃん、まだ処女です。私と会いませんか?」
いかにも演技っぽく、でもほとんど棒読みでメールを読み上げる。
苛立っていた私にはそれはただ単に苛つく材料となった。
「何ヨ。」
「何苛付いてんでィ。そんなむすっとしてたら楽しいことも楽しく思えねーぜィ。」
また、携帯が鳴った。
Shall we dance?
「何が楽しいヨ。むかむかする事だらけネ!」
「何言ってんだ、充分楽しいじゃねェか。土方さんの面に引っかかって馬鹿みたいにメールしてくる女の数数えるのとか。毎日記録更新でィ。」
適当にメールを返しているのか、すばやくボタンを押すと送信する。
「顔だけ見て自分の操差し出そうとする奴がいるってことァ平和な証拠でィ。あぶねぇけどな。」
その瞬間、奴の口角が引きつるように上がった。
そんなことに高校生活を費やしてるのか。
暇な奴。
それと、最低。
「女の心もてあそんで何が楽しいアルか。」
誰かに聞いて欲しい独り言のようにつぶやくと、沖田は携帯から目をはなしてしばし逡巡した。
「なんでそんなに怒ってんだ?ストレスはにきびの原因だぜィ。」
いつもコイツは一言多い。
でも聞かれて答えない理由も特に見つけ出せないので、棘を含みながら一気に言い放った。
「銀八に弁当取られたネ!あいついっつも私の弁当取るヨ。それで自分で全部食べてから箱だけ返すのなんて非常識アル!」
言ったらまたイライラしてきたので自然と唇が尖がる。
隣の沖田はそれを見てぷっ、と笑った。
「馬鹿にしてるアルか?!」
「弁当だけでそんなに怒るなんて可愛くねェオンナノコだな。」
そういいながらも携帯片手にニヤニヤ笑っている。
その姿が妙に癪に障って、こいつをなんとしてでも説き伏せてやらないといけない、と何故か思った。
「弁当は学校に来る意義アル!それ取られたら何も残らないヨ!」
「じゃあ家で食べればいいだろィ。」
「学校で弁当食べなきゃ意味ないアル!・・・しかもあいつ、お前が早弁してても何も言わないネ!」
また携帯が鳴り、そちらに気を取られた沖田の言葉は出てこない。
説き伏せたか、と思って少しだけ優越感に浸ったら予想外の言葉が耳を刺し貫いた。
「銀八、お前のこと好きなんじゃねェのかィ?」
「っはぁ?!」
やっとそれだけ言うと、頭の中がぐるぐると回っているようだった。
怒り、とか苛立ち、というものが綺麗に消え去っている。
と、いうかは焦り、という感情に相殺された。
「俺の弁当とらねェって事は、お前のことが好きでそうしてるんでィ。違いねェ。」
ポチポチと返事を打っている大して興味もなさそうな沖田に対し、私のほうは相当大変なことになっていた。
焦っている。
何でこんなに焦っているのか全然わからなかった。
「な・・・あいつは教師ヨ!そんなことあるわけないネ!」
そうだ、そんなことあってはいけない。
こいつに勘違いなんてされたくない。