Novel
□we've just begun
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強い日差しと蝉時雨の中で走り回り、ライバル達と切磋琢磨した夏は終わった。
全国大会準優勝という功績を残して俺たちは引退した。
夏休みも明け、授業はだんだん受験のための勉強のみになってきて、それに比例して退屈さが増していく。
普段よく大人びてみられる俺も中身はれっきとした中学三年生。
勉強よりも体を動かしていたい、そんな思いは十二分にある。
あぁ、教科書をなぞるだけの授業もその先にある受験も嫌いだ。
そんなことを思ったところで何にもならず、黒板に増えていく文字の羅列をただただ見つめることしか出来ない。
前の席の男子は夢の中、隣の女子は手紙を書いている途中。
教師は何も言わずに黙々と文字を書くだけ。
つまらないつまらないつまらない。
そう思っているとケータイにメールが来た。
差出人を確認すれば、この教室の中で一緒に同じ授業を受けている赤髪からだった。
『授業サボって遊びに行かね?』
少し驚いて、メールをしてきた本人を見た。
向こうもこっちを見ていたらしく、視線が合った瞬間に口パクで「どーだ」と言われた。
そんなの決まってる。
もちろんYES。
「先生、ちょい気分悪いんで保健室行ってきまーす」
突然の俺の発言に数人の生徒が注目する。
「んじゃ俺は仁王に付き添いまーす」
その後に丸井も続く。
教師は大丈夫かとだけ言って、すぐに授業を続行する。
よっしゃ、と俺たちは教室を出てから一目散に外に飛び出した。
外は快晴。
蝉時雨が鼓膜を揺らす。
「…丸井、アイスでも買ってどっか行くぜよ」
「おう!」
夏は終わった。
次に控えるは冬の受験。
受験生が堂々とサボってどうするという罪悪感は、俺たちにはまるで無し。
遊びたいときに遊んで何が悪い。
夏のゴールを通過した俺たちは次に来る春のスタートラインまで全力疾走をする。
俺たちはまだ始まったばかりなんだ。
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