小ネタSS

□前だけを見て
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「後5km!」

僕は走り続ける。
キツイ。
息が上がる。
呼吸が難しい。
もう、止まってしまいたい。

「お疲れ。今日も伸び悩んでんじゃん」

少し湿ったタオルが頭に触れる。

「これ、使用後・・・」
「俺の汗と涙の結晶だ!」

そんな物いらない。
新品が良いとか、そんなんじゃない。
誰かの涙なんて、いらない。

「なぁ、あの事考えてくれた?」

真剣な眼差し。
この眼、苦手だ。
ただ前だけを見つめている。
ただ俺だけを見つめている。

「ああ。やっぱ俺・・・」
「マジか・・・あー、失恋だわー」

その眼差しは俺には合わない。
後ろばかり見つめている俺には。
いつまでも彼奴だけを見ている俺には。

「なぁ、お前が前を見てみたくなったらさ・・・・」

俺が前を見たくなったら?

「必ず俺がさ・・・」

お前が必ず?

「お前の視線の先に居てやるよ」

ああ、そうか。
前を見れないのは・・・
こいつがいつも
俺の視界を
その大きな背中で
遮っているからなんだ。

俺のタイムが伸びないのも、
お前俺の
ペースメーカーだからなんだ

なんだ。
結構心地良いじゃんか。

「だから、いつでも俺の胸に飛び込んできなさい!」

ああ。
今から腕を伸ばして・・・。
なんて都合が良いよな。
もう少し、待っててよ。
焦らして焦らして、
俺をもっと好きにさせてやるから。

位置について・・・
用意・・・ドンッ。


End


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