*LOVE+STORY*

桜色のコスモス
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眠い…あくびと一緒に伸びをしてみた

見上げた空には頼りなさげに

太陽が顔を出していた

音もなく登った屋根の上

そこには1人の少女がいた

寝転んだままのその少女は

瞳の色もわからないが

自分と同じ種類な気がした

試しに猫のように「にゃぁ」と鳴いてみる

途端に包まれた肌寒い風に身震いした

それと同時に目の前の少女の瞳がゆっくりと開かれた

起きあがるその少女はすっとした顔つきだが

どこか幼さが残った顔で俺を見た

ドキッとするくらいの奇麗な琥珀色の瞳に

思わず吸い込まれそうになる

向こうはしばらくボーっと俺を見つめていた

『うわぁ奇麗な猫。
私も本当は猫なんだよ。わかる?』

「そりゃ、わかるさ。血が同じなんだから」

すました顔で言ってみせる

『わ、本当だ!!なんか不思議』

少女は驚いたように目を見開いたが

すぐに小さく笑みを零した

「俺はルイ」

ぼそっと呟いた俺にきょとんとした顔で首を傾げた後

楽しげな声でその少女は美羽と名乗った

「お前、なんで人間なんかになったんだ?」

尋ねた自分の言葉に馬鹿みたいに胸が苦しくなった

美羽は困ったように笑った

「言えないなら良いけどさ」

そう付け加えると美羽は首を振って喋りだした

『人間になったのは…
 人間を好きになってしまったから。
 でも・・駄目かもしれない』

困ったように眉を下げて

美羽は少しずつ話しはじめた

俺は首を傾げたまま美羽の話に耳を傾けた

『自信がないの・・
 もしかしたら猫にも戻れないで
 人間にも成りきれないで
 消えちゃうかもしれない』

視線を落としてまつげを震わせる美羽に

なんの戸惑いもなく尋ねた一言が

罪悪感に包まれる

俯いた美羽の傍に寄って身体を摺り寄せた

弱々しく自分の名を呼ぶ美羽にかける言葉がなかった

溢れるほどの涙がたまったその瞳には

猫と成り果てた俺の姿が映っていた

その瞬間自分は本当に猫になったのだと

強く思い知らされた

[それでも人間になったんだろ?
 大丈夫だって。心配すんな]

やっと出てきた慰めはそんなものだった

けど美羽の瞳からは糸が切れたように

涙がぽたぽたと流れ落ちていった

――…どれだけ泣いただろう

ふと悲しみに歪んだ声が途切れた

「…美羽?」

そっと呼びかけると返事のかわりに

小さな寝息が聞こえてきた

「寝ちまったのか・・」

美羽の頬には涙の跡が悲しげに残っていた

あいつもこんな風に悩んだのだろうか…

ふとあの時のことが鮮明に思い出された――
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