*CLAP*

□ガーベラ
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あの人が離れてしまうんじゃないかって

ただ、怖くて…

いつまでも前に踏み出せない自分…


「はる?どこかわからない?」

「へっ?…あ、えーとここの問題は?」

「あー、それはこの公式を使って… 」

彼は近所に住む3つ年上の祐也くん

もう10年以上も前から一緒にいる

いわゆる…幼馴染みというやつ

祐也くんの家にお邪魔すると

頭のいい彼にこうやって勉強を教えてもらっているのだ

私はこの時間がたまらなく好き

今だけは祐也くんを独り占めしてるみたいで…

「…はる?ちゃんと聞いてる?」

「えっ?…あ、ごめん。聞いてなかった」

えへへと笑う私に彼は困ったように笑うと立ち上がった

「今日はここまでにしようか、なんか飲み物取ってくる」

「えっ、私まだ大丈夫だよっ!」

祐也くんの表情に戸惑いながら引き止めると彼の大きな手が頭の上に降りてきた

「無理したって頭に入らないし、また明日しような」

ポンポンと撫でられてそう言われると何も言えない…

「うん…」

祐也くんは私の返事に微笑むとぱたんと扉を閉めて部屋を出ていった

「はぁ…またやっちゃった」

机に突っ伏すと大きなため息が出た

大学生になった彼はなんだか急に大人っぽくなって…私は相変わらず子どものままでどんどん置いてかれてる気がする

祐也くんは優しいから何も言わずに毎日教えてくれてるけど…学校で彼女がいたっておかしくない

私邪魔者かなぁ…

そう思うと胸がキリキリと痛んだ

痛みに目をギュッと瞑った

「お待たせ。あれ、はる?」

ガチャッという音と彼の声に思わず固まってしまった

「はる?寝たのか?」

近付いてくる足音にドキドキしながら咄嗟にとはいえ寝たフリしたことを後悔する

机にグラスを置いた音がしたあとふわりと何かが肩に掛けられた

「やっぱり疲れてたんだな」

その言葉と祐也くんの優しさに胸がじんわり暖かくなる

…いつまでこうしてよう

起きるタイミングを失ってしまった私の耳に携帯の呼び出し音が聞こえた

祐也くんの携帯だ…

「もしもし、ゆうき?どうした?」

男友達かな?

「うん、うん…わかった、明日持ってくよ」

そう思った私の耳に電話から漏れて微かに聞こえたのは高い声だった

っ女の子だ…

途端に私の心臓はまたキリキリと痛みはじめる

祐也くん、やっぱり彼女いたんだ…

鼻の奥がつんとなる

思わず立ち上がるとそのまま足早に部屋を飛び出した

「あっ、はる?!ちょっ、ごめん切るなっ」

驚いたような声が聞こえたが構わず階段をかけ降りる

「はるっ!どうしたんだよ急に…」

すぐさま玄関へ向かったが扉を開ける前に彼の手に捕まった

しゃがみこんだ私の目からはもうすでにポロポロと涙が零れていた

「っ…はる?どっか痛い?」

私の顔を見た彼は驚き、慌てて私と視線を合わせた

ぷるぷると首を振る私の背中をなだめるようにさする祐也くん

「っ…もう子どもじゃないよ…」

「はる…?」

「彼女…いるなら優しくしないで…」

いつまでも涙が止まらない

胸がずきずきと痛む

私の涙を祐也くんの指がそっと拭った

「はる、俺彼女なんていないよ?」

その言葉に私は恐る恐る祐也くんを見た

祐也くんは困った顔で笑いまた涙を拭ってくれた

「何でそう思ったの?」

「っだってさっき…女の子と」

「ゆうきは友達だよ?」

「うそっ、仲良さそうだったし…祐也くん女の子の名前呼び捨てなんて… 前はしてなかったもん!」

まだ肩を震わす私のその言葉に祐也くんは笑った

「俺、今も昔も名前呼び捨てにしてるのは、はるだけだよ?」

彼の言葉にドキッとしながらもまだ不満だ

「だって…さっき、ゆうきっていってた…」

「ゆうきは名字だよ。結城 真央。資料持ってきてねっていうゼミ長からの学校連絡」

「名字…ゼミ長」

そこまで聞いて自分の早とちりだと理解した

恥ずかしい…急にかあっと顔が赤くなる

「誤解は解けた?」

祐也くんの言葉に真っ赤な顔を隠したまま頷いた

「はるが俺にやきもちなんてはじめてだね?」

その声色はなんだか嬉しそうで、ちらっと彼を見た

「はる、最近よそよそしいから嫌われたかなと心配してたんだけど」

「嫌いなんかじゃないっ!私…っ」

思わず大きな声が出てそこまでいうとまた気恥ずかしくなった

「うん?」

「…嫌い、じゃなくて……好きだもん」

最後の方はとても小さな声だった

「俺もはるが好きだよ」

「っ…ほ、ほんとに…?」

こくりと頷いた彼はまたくしゃりと頭を撫でた

…また子ども扱い…?

むっとした私の心がわかったのか祐也くんはそのまま私の髪をかきあげると額にキスを落とした

「っ…!」

「子ども扱いじゃないでしょ?」

おでこを擦り顔を赤くする私に彼はいつもの優しい顔で笑った

ガーベラ 前進



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