BASARA魂【長編】『fifth S』

□『fifth S』【伊達政宗の章】
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「人の命は誰もが同価値等と講釈垂れるつもりはないが、秤に掛けられないそれは間違いなく重たいものだ。

同時に脆いが故に直ぐに壊れる、奪われる、消え去る・・・

その手段を持ち得た者が奪う側に立ち、何も持たぬ者が被奪者となる・・・世の中の簡単な公式と言うものだな」
「-----・・・公式?」




松永さんの心音が聞こえる・・・・


トク--・・トク--・・トク・・・って定律的な音が聞こえてきて、視界を閉ざしたままそれに聞き入っている俺は自身でも解らないほどの安堵を感じて、腰に手を廻してた




右手に握り込んだ銃が非現実的・・・





ah---違う、か





こうやって、松永さんに抱きついている構図も日常とは異なる色味




「誰かに賞嘆される程の偉人、崇められる程の聖人だとしても、死してしまえば何も残らない・・・無界の闇に染まるだけだ。

その時期が早いか遅いか・・・・早まるか延ばせるか、その長短が寿命と言うものだ」



黒革に包まれた松永さんの指先がうなじをさらりと撫でて、髪を梳く


抑揚のない低い声は何処か子守唄を感じさせて・・・意識がゆらゆらとまどろんでいた

どうしてこんな話をしてくれているのだろう?



餓鬼の頃から程度知ってたけど----こんな風に抱き締めてくれた事なんて一度も無かった


額にキスとか、髪を撫でられる行為は本当に常で挨拶と同じくらいのものだって解っていたけど・・・・今日のこの感じはやっぱり違う





どうしてこんなにも優しく包むんだろう



俺はそんなに脆くない・・・



胸元に頬を埋めたまま、言葉を交わし続ける今は・・・・なんなんだろうか




耳にそっと、髪を掛けて、そのまま顔の輪郭に触れる

革の感触よりも・・・・温かさにヒクンっと身体が震えた










「そして、命の針を自ら止めたい者も居るのだよ」








命の針・・・?


「砂時計の砂がさらさらと時を刻むように、人間の身体には途切れる事無く血が巡っている---・・・・ならば砂時計の砂を止める方法は
なんだと思うかね?」
「---ah、砂が落ちきってしまえば・・・・・止まる、よね?」
「そうだ。ならば同じ質問だが、体内を流れる血を止める方法は?」
「っ-----・・・・」





思わず、松永さんの背をぎゅって掴み込んでしまった







「----心臓を止める・・・」








重たい・・・
言葉だけなのに凄い重たく感じる






「卿はやはり、聡明だな」
「っwhat・・・・?」



そ、んなに難しい内容じゃないよね?

それに返した言葉も学のある単語じゃない




思わず、松永さんを見上げてしまった


なだらかな首筋が見えて、同時に綺麗な闇色の瞳が注がれる




「人間には自律神経と言うものがあってね、寝ている間に自発呼吸をするのも、心臓が動き続けるのもそのお陰と言われている。

脈流を止める術は、心臓を壊すか、その神経を狂わせる---・・・その二つだ。

まぁ---脳を破損しても同様の結果に至るから、全て正解とも言えるが」
「ん----な、んか・・・・難しい」
「つまりは、絶命させろと言っている」
「っ!----」
「中途な殺傷行為では人は死なないと言う事だ。奪うならば、心臓か頭部を---・・・若しくは心を壊せと言う意味だよ、解るかね?」





見下ろす眼光は、冷徹に見えて無慈悲な闇色をしていた



「心的ダメージを主とするならば、四肢を打ち抜いても腹部でもなんでもいいが、そうではない場合は迷わずに急所を狙う」


まるで心の奥までも見透かすほどの鋭い眼光に息を飲むしか出来なかった

松永さんの心音だけがこの世に俺を繋ぎとめてくれているみたいで・・・



「戸惑う事は自身の生を縮める愚行に他ならない」


右手に握られた拳銃がすげぇ重たい・・・




「卿のその綺麗な瞳と清廉な志しに付け加え給え」
「え・・・・」
「如何なる状況においても、生きるのだと」
「っ!」








そうだ・・・

俺が今、手にしているものは玩具でもなんでもない


本物の殺戮の為の武器に他ならない
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