BASARA魂【長編】『fifth S』
□『fifth S』【伊達政宗の章】
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次の日・・・・
「ああ?待て---それはどゆ依頼なんだ・・・・」
いつもの朝の語らいの最中、小十郎は琥珀色で満たされたカップを片手に少しだけ声を荒げていた
その声の向かう先はやっぱり松永さんでそれを受けるなり不敵な微笑を浮かべている---・・・まぁいつもだけど
ただ日常と少しだけ異なるのは、今日は坂田さんも居る事
昨日は早くに仕事終っただけなのかもしれないけどやっぱり珍しい
そして、いちごみるくのほんわかした色合いも久しぶりに見た
肌の色に合うそれをこくりと口に含んで、小十郎の言葉に相槌を打つ
「うん---まぁ片倉の旦那の疑問は俺も同感---畑違いじゃねぇか」
小十郎は不機嫌そのものなんだけど、坂田さんは怪訝と言うよりかは、心底この会話の意図が解らないって感じがする
終始、状況を見定めているのは土方さんだ
この人は途中で口を挟む真似をしない
必ず、最後まで咀嚼して飲み込んでから思った事を口にする
でも・・・細められた眼光はやっぱり鋭い
綺麗な色なんだけど・・・
俺はその会話に何も物申す事が出来ずに居た
何故なら話題の中心に置かれている本人だから
かしこまっている訳でもないんだけど、じっと皆のやりとりを目で追っていた
カップをコトリと置いて両手を組み合わせると伏目がちに松永さんが口を開く
「まぁ、通常の依頼とは一線引いた内容ではあるが---・・・・望むべき結果としてはありだろう、果ては死を要求しているのだからな」
「かと言って----納得できるかと言われたら素直に聞ける内容じゃぁねぇだろ?」
どうやら小十郎はとことん腑に落ちないらしく食いつく様に松永さんに迫っていた
そんな様相を楽しそうに愛でて、ふぅと溜息を零す松永さんはきっともう先のヴィジョンってもんが見えているんだろうと思う
「うむ、納得いくか、いかないかなど、この場は必要ないだろう?依頼内容は至って普通だ、単純に殺される方と殺す方、両者ともに了承済みなだけだろう?」
そう---
今回の内容は暗殺とかそういった類のものではない
寧ろ----
それと対極に位置するくらい、真っ直ぐな---・・・・命のやりとり
ゆらりと銀糸が揺れて、緩い眼光のままの坂田さんが再度口を開く
「了承済みだけど・・・どっちの立場にもなりえる可能性があるって事だよな?」
「そうだな、腕次第では」
「はぁ---・・・・何?その至極あっさりな感じ」
流石に呆れたという感じで銀糸をくしゅりと掴み込んで項垂れていた
小十郎は相変らず、眉間に皺を深く刻み込んで、煮立つ怒気を感じさせている
俺は---どうすればいいのだろうか?
四方に行き交う個々人の意見ってもんはまとまりようがない
寧ろ、松永さんはまとめようとも思っていない様に見える
だって---
闇色の瞳は一点だけを見据えていて、その先は俺だから
全ての選択肢は託されていると言ってもいいのかもしれない
「なぁ政宗」
「ahっ---はい」
気がつけば、土方さんが煙草を咥えたまま、こちらを見つめていた
まぁ正確に言えば横目で俺を眺めているって感じかな?
「松永さんが今回の依頼を受けたって事は、お前それなりに剣術の嗜みがあるって事だろ?それに関しちゃどうなんだ?」
「へ----・・・・あ、と・・・まぁ確かに腕の程がどれくらいか説明し難いけど、まるっきりの素人って訳でも----ないです」
「へぇ---・・・」
餓鬼の頃から、剣術に関しては教え込まれてきたし、習い続けてきたのは事実だ
それは、伊達TCと言うお家柄なのかもしれない
海外向けの興と言うのだろうか?
剣舞披露とか----試合とか、兎に角日本固有の文化は未だに彼らにとっては嗜好品の様で、それを伝手に取引に漕ぎ着ける
ある意味、策の一つという観点から始めた剣術は、あの暗い日々の中では光にも思えた
俺自身、その時だけは楽しんでいたから
だからと言って---腕前がどうかとか正直解からない
つい、自分の手を見て閉口してしまう
命を掛けた真剣勝負をした事は・・・・一度も無い
「でもまぁ---松永さん的には見合う腕前と思ったから受けたんだろ?」
「そうだな」
「だったら---」
そこでついぃと俺の方へと翠色の瞳を向けてくる
心の奥まで突き刺さりそうなその眼光は----身体を震わせるに足る程の真摯なものだ
「後はお前次第だな。受けるかどうかは」
「っ!」
「依頼受けたとは言え---無理強いしてる訳でもねぇだろ。決定権はお前にある。受けるも良し、断るなら、それはそれで他のヤロウに託されるだけだ」