BASARA魂【長編】『fifth S』
□『fifth S』【伊達政宗の章】
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昨日、初めて--・・・・・人を殺した
肉を裂いた感触がいつまで経っても消えなくて、どんなに洗っても身体に血臭が染み付いている気がした
陰で付き添われたと言うか・・・・きっと心配で着いて来てくれてたんだろうけど
事切れた肉塊を見下ろしていた俺を現実に引き戻したのは小十郎で---・・・「見事な太刀筋だな、正に真剣勝負に相応しい」と諭す物言いをくれたのは松永さんだ
此度の依頼は通常とは少しだけ違って、その微々たるものが俺の心を揺らした事実には変わりない
【伊達政宗の章】
某日
生憎の曇天模様・・・・・
土方さんと坂田さんは任務に借り出されている
小十郎も別件ではあるが、朝からもう出掛けていない
此処に来て、早いもので数ヶ月の時間が経過していた
俺は射撃場に篭って、いつもの様に汗だくになっていたら、珍しく松永さんが現れた
まぁ扉の開閉の音なんて当然聞こえなかったけど、それなりに気配には敏感になったらしく、直ぐに気がつく
「ah---・・・松永さん何かあった?」
「うむ、いい反応だな」
「that so?」
「ああ、悪くない」
ふぅと一息ついて銃を下して、柔和な笑みを浮かべている松永さんへ歩み寄ると漆黒の指先がいつものように髪を撫ぜる
もう日常過ぎて、不思議と安堵する俺は少しだけ見上げる眼差しを送っていた
「んと・・・珍しいよ?松永さんが此処に来るの」
「言われてみればそうかもしれんな---だが、先般教えた通り、型に関してはきっちりと刻まれたようだな」
「はい、お陰様で、大分慣れてきた気がする」
此処で笑みを浮かべられる辺り、俺ももう真っ当な人間じゃないと思った
この手に握られている銃は人を殺すための道具に他ならない
それを毎日ぶっ放してんだ
正気の沙汰じゃない
自らの手に握られた鈍色の拳銃をじっと見つめていたら少しだけ心が苦しいと思う
昔の俺は、仕事と割り切ってどうでもいい漢に身体差し出してきたじゃねぇかって・・・形は違えど、人の命を奪う行為だって諦めにも似た乾いた感情で飲み込むしかねぇんじゃねぇの?
良し悪しなんて解らない
無益な生殺与奪行為と思うのは受ける側の考え方だ
其処に至るまでの過程の中で、ソイツが何万人もの命を奪っていたとしたら・・・・理由なんて充分過ぎるじゃねぇか
それでも、命を奪う行為に呵責ってもんが付きまとうのは・・・何故だ?
闇色の瞳にはそんな心の葛藤はお見通しだったらしく、気がつけば、きゅっと抱き寄せられていた
「ah---?松永さん?」
優しく髪を撫でて、指に絡ませて----それの繰り返し
小十郎に見られたら、即射殺されても可笑しくない
でも・・・・どうしたのかな?
いつもならこんなに長い時間し続けるような真似はしないのに
今日の松永さんは---
どこか・・・
変・・・・
「----松・・・なぁ」
「卿の心に浮かんだ疑念はそのまま持ち続け給え」
「ha---・・・?」
頭上から降り注ぐしっとりとした声
声に出さなくても浮かんだ煩悶に対して、ストレートに響く進言と、優しいぬくもりにそっと目を閉じていた
何故だろう・・・
今日は凄く・・・官能的でドキドキする
それはこうやって身体ごと密着させているからなのかな?
松永さんがいつもと違う感じがするから、勝手に心が幻影を魅せてるだけなのかな?
嫌じゃない・・・
怖くもない
寧ろ・・・・酷く落ち着く