BASARA魂【長編】銀&BSR 泡沫の夢@
□広がる不安
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屯所での会話を聞いた時、魚の小骨が咽喉に引っ掛かったような違和感を感じた
最初は些細なもんで----単なる偶然と思っていたのに、徐々に大きくなるこの妙な存在がやけに鬱陶しい
土方と連絡が付かなくなって、今日の時点で5日目と告げられた時、正直、その間何してた?と零しそうになった
数日の休みで連絡がなかったのを軽んじた時間も含めて、一週間
よもや、状況が好転する様にも思えそうに無い
いま、まだ凶事に巻き込まれているとも断定が出来ないがどうにも納得がいかない
ただアレはもしかすると
〔広がる不安〕
『片倉、すまないが---明日屯所に来られるか?梵と』
「おい、なんだ?いきなり突飛な」
土砂降りのかぶき町
耳を劈くほどの雷光はリビングに居ても響いてくるし、此処は天が近いせいかやけに大きく聞こえてくる
俺と政宗様はいつもの夕食をとって、ゆっくりと過ごしていた
斯様な荒れた空をぼんやりと見上げる綺麗な蒼色の瞳はいつもの様に透き通っていて外界に反して凄く穏やかな時間が流れている
「ah---また光った」
喜々とした表情ではなくて、ぼんやりとそれを見つめながら呟かれた言葉は幼い頃の姿と重なる
天を走る光の筋を見上げて、「竜が其処に居る」と表現なされた政宗様は何を思いそう申されたのか
ただ俺はそんな姿にいつも胸を焼いていた
何故だかは解からないが----・・・・竜の二つ名を持つこの御方がいつか俺の元から消えてしまいそうで----壱拾も年上の俺がそんな他愛もない懸念を抱いている事は口にはしていない
充分成人された今でも、雷光に目を細める政宗様を見ると少しだけ複雑な心境になる
馬鹿げている
自分ではそう思っているのだが、----俺のこの感情はきっと天でさえも嫉妬の対象としてみているのだと思った
どんだけ独占欲強ぇんだよ・・・・俺は
っカカッ!!-----ゴゴゴゴゴゴ・・・・・
それにしても---
「---久しぶりですね、此処までの凄い雷は」
「そうだな---こっちに来てからは初めてじゃねぇか?」
吊り上げた口元と挑戦的な笑みは竜の雷光を懐かしんでいるように見える
グラスに注がれた酒をコクリと飲んで---、バルコニーへと身を進めていた
大きな窓に手を添えて空を見上げる後姿をじっと見つめてしまう
閃光が走るたびに、政宗様が闇となって見えた
光と闇---相反する感じに目を細めていたら、ゆっくりと振り返った政宗様が不思議な事を告げてくる
「な、小十郎---俺餓鬼の頃、アレが竜だって思ってた」
「-----ええ、そうですね」
額に手を添え、くつくつと笑いながら肩を揺らす姿を、俺もまた笑みながら見つめていた
やはり、俺と同じことを考えておられたのだなとか----思ったら自然と笑えて
「竜は天の使いだって何かで読んだ----だから、天駆けるあの閃光は絶対に竜なんだっ---って餓鬼ながらも思ってたんだろうな---
いつか姿形が見えるに違いないとか思って、毎度毎度見上げてた----全く----だせぇなぁ」
「そうですか?可愛らしいじゃないですか」
なるほど----当の本人はそんな事を思ってたのだと解かると、なんだか自分に恥ずかしくなる---・・・・
単に竜が見たいと言う至純な想いだったのだ
俺は----政宗様があの竜と共に天に還りたいのだと勝手に思っていた
今生はこの御方にとって苦しいものだったろう
世辞にも幼少期は良いものだったとは言い難い
いやこれはあくまでも俺の主観だ
政宗様は一度も『辛かった』『苦しかった』等の苦悶を示した事はない
命を狙われてた事ですらもご自分の重責として受け入れていた
近しいものに命を狙われる----それはどういう気持ちになるのだろうか?
戦火に肉親を奪われた俺には解かってあげられないものだったら---
そしてそれを解かってくれともこの方は仰らなかった
同情も何も要らない
そう思ってらっしゃる気がしたから、俺も言葉には出さなかったし、それについて言及してはこなかったんだ
実際、良いものではなかっただろうが-----それは当事者にしか解かり得ないものだから
俺が突如舞い降りた劫火で何もかも失った事を政宗様は知っておられるが----ただ一言だけ
「お前が生きていてくれた事、嬉しく思う」
その瞬間----総てに感謝したのを覚えている