BASARA魂【長編】銀&BSR 泡沫の夢@
□心の奥
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目の前で漆黒の髪があまりにもしっとりとしているからなんだか落ち着かない
二人で酒を呑みながらも妙な静けさのせいか、テメェの心音がうるさく感じられる
何となくではあるが、最近料理なんぞが板に付き始めた気がして、キッチンで思わずきょとんとなっちまった
まぁ今までも自炊くれぇはお手のもんだったけども・・・そんな手の込んだもんは当然した事はない
これは間違いなく片倉の旦那の影響だ
【心の奥】
政宗君と言うある意味、自由奔放な子をああにまで留め置ける手段の一つが料理なんだって、知ったから
なら、俺だって十四郎を留め置きたい
仕事で疲れて帰ってきて、目の前に旨そうな料理があったら確かに俺でも嬉しいし、帰るのが超楽しみになる
え?
待って・・・
この子ってどちらにしてもマヨがあれば全て至高に逸品なっちまうよね
じゃあいつもテーブルにマヨネーズ置いとけば事足りるんじゃねぇの?
等と----本末転倒な事は考えないようにしよう・・・
そう、思いながら、カマンベールチーズをフライにしたもんをことりと置いた
「あ----何?お前こんな洒落たもんまで作れるようになったの?」
「え---まぁ・・・・なんだろう?一応器用らしいぜ?俺----片倉の旦那ほどじゃねぇけど」
「へぇ・・・・」
まじまじと見つめる翠色の瞳はマジで幼子みてぇに無垢過ぎて---先般のずぶ濡れのコイツとは全く違うと思った
なんだろうな---
何がコイツをああさせるんだろうか・・・・・
「で----お前何飲むの?麦酒?焼酎?」
「----麦酒でいい」
「へぇい」
二人分の缶ビールを冷蔵庫から取り出して、ついでにキッチンにあった袋菓子も摘んでリビングへと戻る
そのまま差し出してやれば、「さんきゅぅ」と笑みながら受け取るから、ああ---コイツって可愛いとか思っちまった
一挙手で俺を嵌らせるとかどんな魔力だよ・・・・
床にそのまま座り込んで、ぼんやりと窓の外を眺めれば未だにさぁさぁと雨が降り続いているし、雷光も断続的に見える
さっきよりは通常に戻っているかもしれないが---いつもとは明らかに違う十四郎を見つめながら麦酒を掲げてから飲み込んだ
「はぁ---うめぇ・・・・」
口元を拭いながら零された言葉と視覚からの情報だけで俺は堪らなくなる
しっとりと濡れた唇で、一体何を紡ぎ、どんな言葉を語るのだろうか・・・・・
俺は聞いちまって良いのだろうか?
何よりも俺自身が怖気づいている事に気が付いちまって----情けねぇなぁって自嘲しちまった
どんな苛烈な内容だとしても、こいつはこいつだ
そう思っているのに----絶対に消せない何かがあったらと思うと既に嫉妬しそう
等と----思っていたら、意外にもマヨもかけずにフライを口に運ぶ姿を見て「あ、れ?」と零してた
素でいったよ---この子
珍しい・・・・っ
「ん---旨い・・・・」
「へっ---!!!あ---だろっ!オレンジジャムと合うだろっ!」
「うん」
他愛もねぇ会話にこんなに心ざわめかせる俺が可笑しい・・・・
いい加減落ち着いて、いつもの感じになれって・・・・
十四郎は俺の過去をあんなにも普通のまま受け止めてくれたじゃねぇか・・・・
俺が浮き足立ってどうするよ・・・・
はぁ----・・・・
これまたいつものように銀糸をわしわししていたら、そろりと翠色が見下ろしてくる
もぐもぐと咀嚼しながら不思議そうに見つめてる姿は、きっと俺の心境を見抜いているんだと思った
「何、お前----緊張してんの?」
ほらね
やっぱり見通されてる・・・・・