BASARA魂【長編】銀&BSR 泡沫の夢@
□記憶@
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人間は人間が嫌いだ
いや、もっと正確に論ずるならば、自分以外の生命体をテメェよりも下に位置づけしておきたいと言う支配欲の持ち合わせがある
世の中に欲の無ねぇ命は存在しねぇ
何故ならば『生きる』という行為そのものが欲の証だからだ
要するの自然とそれをしちまっているという地球上の生きとし生けるものは欲塗れという事
まぁ俺自身もそんなもんだ・・・・・
否定はしねぇよ
昔っから
〔記憶@〕
「泣かないだと?嘘だろ-----」
「いいえ----見て・・・・解かるでしょ・・・・・泣き声を上げてくれない・・・・・」
「生きている---のか?」
「はい----ちゃんと鼓動もしっかりしてるし、自発呼吸もしてくれてるけど---第一声を上げてくれた以降-----何も・・・・・・」
(母親の胎内だけが唯一の居場所だったのに----そっから追い出されちまった)
土方十四郎5歳
赤子の仕事は泣く事だと程度物心付いた時に知ったが------俺は生まれたその時からその『仕事』ってもんを放棄しちまっていたらしい
お袋が生きていた時、『凄く心配したんだから』と切なげに笑いながら教えてくれた
その時点でもう長くはない命だったお袋
餓鬼の俺にはそれがどれ程の驚くもんだったとか知る由もねぇし、当事者な訳だから当然何も言えなかった
ただ、ぼんやりと-----やせ細ったお袋を見つめて、泣かない事にどうして心配されたのだろうかと思う
泣いて何になるってんだ?
言葉を話せないからと言って----何を表現したかったってんだ?
逆にそんな表現をしねぇ俺を解かってくれたお袋がすげぇと思う・・・・・
けほけほと乾いた咳きを毎日零して-----床に伏せったままの儚い姿にはもどかしさが沸いた
裕福なんかじゃねぇし、その日を生きるのですらも必死な感じなのに----いつも俺には笑って頭を撫でてくれるお袋を見てると心だけは安らげた
雨風凌げる程度の長屋みてぇな住まいが俺達の場所でそこに訪れるのは----見知らぬ漢で---お袋を労わる訳でもなく、ただ謎の封筒を置いて直ぐに居なくなる
毎週毎週----・・・・
この人は誰
疑問に感じつつ----何も口にはしなかった
ただ----その時間だけはお袋にしがみ付いて、自分でもよく解からない程、睨みつけていたのは覚えている
コイツは敵
俺の中でそう認識していた
言葉を交わした事もないし、何かをされた事もない人間を敵視し、コイツが家に来る時は心がイガイガしたもんに変わる
不愉快・・・・
「十四郎----」
静かな声と-----温かい指先が髪を撫でてくれた
蒼白い肌と----餓鬼の俺の手でもへし折れそうな首筋は死の匂いを感じさせる
「私を恨んでる?」
「-----・・・・・・・」
意味が解からない----
どうして俺がお袋に恨みを抱かなければいけないのだろうか?
ぎゅっと抱き締められて、抗う事もせず腕の中で目を閉じていた
直ぐにでも止まっちまいそうな心音が-----苦しい・・・・・
「きっと----恨んでいるわよね・・・・」
何度も何度も髪を撫でて、まるで独り言のように呟く声は少しだけ震えていた
「父親も居ないし----遊びにも連れて行ってやれない----私は迷惑ばかり掛けて----貴方の自由を奪っているのね・・・・」
「-----・・・・」