BASARA魂【長編】銀&BSR 泡沫の夢@

□記憶B
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お袋が動かなくなっちまった次の日



まるでタイミングでも計っていたかのように『封筒を持ってくる人』が現れた

血臭漂う薄暗い部屋で、聞こえる筈もないお袋の心音が欲しくて・・・・胸に耳を当てたまま目を閉じていたらそいつが来た



この状況に嘆声を上げる訳でもなく、物怖じもせずゆっくりと近付いてきて布団の横でしゃがみ込む


明らかに死んでいるのは解るだろうが・・・それでも脈を取るかのように首筋に指先を当ててた




重なるように身を横たえたままの俺の目にそんな指先だけが動いていて、一体何を?とか思ったけど声は出せそうにない



いや、お袋に告げた言葉以外の声に興味がない


何も表現したいものもないし、伝えたい事もないから



俺が刺したんだよ----とか、言ったところで、血の海が消える事などないだろう




この身体にはもう、血の匂いが染み付いてる・・・






〔記憶B〕


「お前は大丈夫なのか?十四郎」

え----・・・

今----俺の名前を呼んだ?

「十四郎?」




二度目ははっきりと聞こえた
同時に髪に触れる感触も



思わずヒクンっと身体が強張っちまって現実が霞む


この人は俺の事を知っていたの、か?

話しかけられる事なんて一度も無かったし、目を合わせた事もない






俺は----その辺の石ころみてぇな存在だから、お袋以外の誰の目にも留まらないと思っていた



いや-----正確には視界の中には存在してるけど、誰にも気がつかれない虚空みてぇもん・・・・




居場所のない餓鬼・・・・





そこで初めて顔を上げて、まじまじと『封筒を持ってくる人』を見つめた

意外にも凄い優しい目が真っ直ぐに注がれていて、元々言葉をなくしていた俺はますます口を噤む




もう、頬にこびりついた血とかは完全に渇いて、顔が強張っていた

着物も何もかもがドロドロで----・・・視界はモノクロに少しだけ色が乗っかっただけの映像だ




でも俺と視線が絡むなり、哀しげにも笑うから・・・・初めて場所の解らないとこがギリっと軋む





痛いというか----苦しい・・・・


「十四郎・・・この人はもう死んだんだよ」
「-----・・・」





違うよ

この人は死んだんじゃないよ


俺が殺したんだよ





「命の刻限なんていつ訪れるか解らないんだよ・・・・でも、お前は最期までこの人の傍に居てくれたんだね・・・ありがとう十四郎」
「-----・・・」




違う

お袋がくれた『ありがとう』とこの人が告げた『ありがとう』は意味が違う気がする

でも何がと言われても答えられないから、黙したままじっと目の前の人を見つめてた



「この人はね----本当にお前の事が大事だったんだよ・・・だから、いつも嘆いていた・・・・
長く一緒に居られないと解っていて、お前を生んでしまった・・・・

逢いたくて仕方ないと心底思っていたけど、それは自分のエゴなのかもしれないと・・・・」




エゴって----なんだ?
難しい単語の意味も解らないから、刹那、眉を動かしつつもまた、お袋の胸元に耳を当て目を閉じる





聞こえない・・・・・



脆弱だったけど、ずっと鳴っていた音が今はない




無音

無界

何もない・・・・






此処に居るのに居ない
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