BASARA魂【長編】銀&BSR 泡沫の夢A
□見通す目※R18
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見廻組副長になっちまった土方さんは思いのほか、暴れる事もせずに静かだった
最初はがなり立ててはいたものの---車の中では終始、口を噤んだまま、煙草を咥えている
後部座席の様子は違和感極まりねぇ-----
無表情な土方さんと、その隣で不安げな顔つきの近藤さん----
俺と近藤さんの存在ってもんは思い出したようだが-----万事屋の旦那の事とかはどうなんだろうか----
如何せん、その旦那は御所を出た時に、またも姿を晦ませた
全く何処に消えちまったのか----・・・・
でも---まぁ・・・・・あの状況下に置かれて、飄々としていられるのならば、大したもんだとも想う
土方さんは旦那の事を全く覚えちゃいないだろう
見廻組屯所で一度も視線を向けなかった
それが-----どれだけ堪えたのかは----旦那にしか解からない事だ・・・・・
〔見通す目〕
「近藤さん----このマヨラ---本当に記憶を抜かれちまったと思いやすかい?」
「ん!?----ああ・・・・・あ---・・・・」
心此処に在らずって感じの生返事を零す近藤さんから、意見を聞くなんて無理っぽい----直ぐにそう思う
未だに現実を受け止められていないと、全てで体現していた----
だから真っ直ぐに疑問を投げてやる
「土方さん-----正直アンタ何処から何処までの記憶があるんでさぁ----」
「ああ---?何のことだ」
直ぐにバックミラー越しに鋭い眼光が向けられる
いつもの良く見慣れた瞳なのに----今は別のもんに見えて-----なんだかムカつく・・・・・・
「何もかにも----アンタの記憶の保有程度を聞いてんでさぁ----俺と近藤さんの事は本当に思い出したんですかぃ?」
「ああ?思い出すも何も----お前は総悟だろ----どっからどう見てもムカつくクソ餓鬼以外の何者でもねぇ----
近藤さんは近藤さんだ----何も可笑しなことはねぇだろが----」
「じゃぁ---アンタの記憶の中にある俺と近藤さんは----何してやしたっけ?」
「さっきから何なんだよっ!意味あんのかよっ!コレ」
「意味ってもんは第三者が垣間見た時に発生するもんであって----当事者にはなんら構いやしねぇでしょ---あってもなくても」
激昂してるように受け取れるかも知れねぇが----この会話の流れっもんは至極穏やかなもんだ
土方さんが今も尚、副流煙で公害甚だしいのも特筆する必要もねぇ位だ
車の駆動音が妙に耳障りなのも、雨音がいつまで経っても消えねぇのも何一つ代わり映えしない
見廻組屯所でアンタのイカれたなり見た時と比べれば、揺り篭に揺られている程度の穏やかさ
「-----おい、総悟、コレは取り調べ----なのか?」
「そう取れるなら、そう取って頂いて結構ですぜ----」
「だったら---黙秘権の行使ってもんも正当だって事だな」
「アンタが自分に不利益になるような、やましいもんを抱えてるってぇんなら---どうぞ、御自由に
まぁ---逆に俺はその時点でアンタを容疑者から被告人に格上げしやすけどね」
「それは世間一般的には格下げだろ----・・・・・人として・・・・」
心底呆れ模様の顔つきをしつつ、はぁと溜息を零すマヨラーはぼんやりと窓の外へと視線を投げた
未だに拘束されたままの両手で煙草を灰皿に押し付け、直ぐに自らの膝の上へと手を投げる
近藤さんは似合わない程、真面目な面構えのまま、変わる事はなかったし、車中の空気も変わる事はなかった---
果たして、屯所に連れて行った処で何かが変わるのだろうかと---見えぬ未来に不安を抱いたのも事実でこの様子の可笑しいマヨラーをどうしてやろうかと思っていた---
土方さんが得意とする嬲り、拷問を俺が掛ける事は容易いし、満願でもあるが---・・・・・どうも解せない
このマヨラーが奇宴ってもんを演じてる可能性を否定出来ねぇからだ
見廻組、そして、その後ろ盾かもしれない存在足る天導衆
その両方ですらも騙す算段だったとしたら?
少なくとも過日にあざとい騙しを貫き通した姿も見ている
まぁ----あん時は俺も当事者であったんですけどね---・・・・・
目的完遂の為ならば、汚名ですらも喜んで甘んじるアンタだ・・・・・現状況だって嘘だとは言い切れない
コレは----俺がそうだったらいいなと思っているだけなのかも知れねぇが----兎に角今は少しでもいいから情報ってもんを引き出しておきたいと思う
見廻組局長----芹沢鴨、佐々木異三郎・・・・・
二人から聞いた話の全てを易々と信じる訳がねぇ---
何故なら----ヤツラの真意ってもんが掴めねぇからだ----
全部が全部作り話とも思えないからこそ加重たる確認ってもんを取って然るべき----