BASARA魂【長編】銀&BSR 泡沫の夢A
□拒絶
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「はぁ---」
真選組屯所----か
そして、此処が俺の部屋だと告げられたが、どうにもすんなり腑に落ちていかない----
堕ちるはずがない
俺に、この場の想い出は何てもんは----存在しちゃいないのだから-----
「副長---窮屈だったでしょ?」
そう言って----山崎が俺の手錠を外した
窮屈と言うかなんと言うか----妙な心持だったのだと告げる事はしなかったが----見た目以上に聡いコイツは俺のそんな表情を読み取ったのか
何とも言えない、微妙な表情を浮かべながら、「僕の事は---覚えてらっしゃいますか?」と問うて来る
何かに救いを求める、懇願する眼差しで
「-------・・・・」
手械の無くなった腕----額に手を添えてふっと視界を閉ざす俺は----山崎と言う人間を知らない---
いや、正確に言えば----知ってるんだ・・・・
この感じも、妙におどおどした様も----記憶の片隅処か、日常的に浮ぶ
だが---『山崎』と言う名を当てはめるには、どうにもしっくりと来ない----
その違和感がずっと続いていて、堪らなく苛立つ・・・・・
極自然に、「山崎」と呼び----何かを伝えている光景が浮かび上がらないことも無い
全てが曖昧で、何もかもが霞むんだよ----
幻みてぇにぼんやりとしてて、-----かと言って、夢見てた訳でもねぇ
ただ、現実だったという確証が無い---
ドラマの光景を自身に当てはめちまうような、病んだ人間の思考回路と同じに思えて堪らなく、切迫した気分に堕ちちまうんだ----
くっそ・・・・・
「----覚えちゃ居ねぇが----お前の事は良く知ってる---」
それが一番的確な答えだと思った----
刹那、くぐもった表情を見せつつも----「---副長、らしいですね」と笑いながら、一時間毎に見廻りに来ることだけは了承して下さいねと告げ、山崎はその場を立ち去る
そんな後姿をぼんやりと見やる俺は----心の何処かにチクチクとした鈍い痛みを感じていた
一先ず、隊服のジャケットを脱ぎ捨て----自室であろう其処に腰を下ろす
ぼんやりと周りを一瞥しつつ----我ながら、殺風景な部屋だなと思った
俺の部屋なんだから---まぁ当然だと納得もしてる
物質に頓着していた記憶もなければ、引きこもりの記憶もない
でもこの空間でいつも何かに追い立てられるよう机に向っていたという事は知ってる
この----反比例な感じが苦しくて-----煙草を咥え、フィルターをぎちっ---っと噛み締めていた
何もかもが断片過ぎて----今立ってる場所でさえも覚束ないっ----
真っ白な隊服が視界を染める中----ふと総悟が言っていた言葉を思い出していた・・・・・
あのクソ生意気な餓鬼が言ってたな--
『どうして、同じ色じゃねぇんだとか----其処気がつきやせんか?』
俺は----近藤さんに拾われて、今までずっと一緒に過ごしてきたはずなんだ・・・・
ボロ雑巾と寸分違わない、白濁塗れの腐った俺を----拾い上げてくれたあの人の為だけを思って、この地に訪れ----どうにかこの人の名を知らしめようと躍起なって----手段なんざぁ問わない振る舞いをし続けていた-----
机の上に積まれた書簡に触れながら----
いつも始末書ばかり書かされて、幕府のお偉方に嫌味ばかりを告げられる毎日に辟易しながらも、何処か満たされて-----
蟲の這い蹲った後みてぇな文字で埋め尽くされたそれを、ぱらぱらと捲りながら、俺の見ていたものは確かに此処にあったのだと妙に納得してる----
全ては----近藤さんの為であり、俺個人の思いなんて何一つなかったのだと----・・・
だったら----どうして、俺は近藤さんと同じ色の隊服を着ていない?
「-----・・・・・」