BASARA魂【長編】銀&BSR 泡沫の夢A
□一択
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「もしもの想定話ってもんは俺様は好まないっ-----そんな憶測で振り廻される方の心境ってもんは嫌って程味わってきたからさ
一応さ---俺様だって結構な過去ってもんは経験してきたんだよ
信じ信じられの世界じゃない----裏切り裏切られの世界ってもんだったから-----何が真実で何が偽りかとか・・・・・石橋叩いて渡る---処か、橋なんてもんがなくても進まなきゃならない状況だったんだ------」
それは----俺も一緒だと思う・・・・・
ま---過去の惨事を比べられるもんじゃねぇと思っちゃいるが----あの時の俺も同じ様に---前に進むしかなかった・・・・・
犠牲にした命に代わりなどないのだと----充分に承知の上で残酷な現実を駆け抜けた---
「------俺様の目に映るあの副長さんは---生気を感じない・・・・」
そう言いながら寄越されたほうき頭の瞳は見た事も無い程、凍てついたもので---本性ってもんを見た気がする---
命を平然と奪う暗殺部隊に属していたであろうコイツの生き様--
「ねぇ----本当は旦那も解かってるんじゃないの?さっき---此処でもう一人の副長さんを見た時に気が付いたんじゃないの?」
「-----・・・・・・」
それは-----恐らく的を得ているよ------ほうき頭・・・・・
何も言えないけどそうだと思う
「アンタが出逢った副長さんは副長さんの姿を模した天導衆の策そのものだって---違うかなぁ?
いや、解かっていても----止められなかったの?---現実が悲壮過ぎて受け入れられなかった?
伝説の白夜叉足るアンタでもそんな感情に流されちまうって事?」
よくもまぁ---ズケズケとデリカシーの欠片もねぇもんを告げてるよなって思った----けど、正論だと思う
俺は辰馬に言われて現実ってもんを検める機会は何度もあったんだよ---
アイツは馬鹿だけど、確信や根拠のない発言は零さない人間だって事は俺が一番良く知ってるからだ
肌寒い訳で何でもねぇが----両手で肩を抱いて、天を見つめていた
本来ならば、俺が十四郎に詰め寄って真実を突き詰めるべきだ
でも----・・・・・・
「今もそんな危うい存在と二人きりにさせちまう現実も認めて----さ---旦那は、何考えてるの?---」
着流しが妙にしっとりしてるのは、先般の雨のせいと---現状も続いている湿度の高さがもたらすものだ・・・・・
俺の髪がくりくりになっちまってるのも----こんなにも心が重たいのも何もかも雨のせいっ------
十四郎が儚げに笑ったのも全部雨のせいっ----
降り注ぐ雨が何もかもを沈鬱なものに変えちまったんだ
っくっそ----・・・
わしりと銀糸を掴み込んで-----「俺はっ!」-----っと・・・・・・なげやりにも声を発していた・・・・・
別に何もかも同情とかで流された訳でもなんでもないっ-----
そんな声にほうき頭がひくりと揺れた・・・・・
「------どっちの十四郎が偽もんだとかっ----決められないっ----
決められねぇんだっよ・・・・・・------考えても見ろっ------・・・
十四郎の記憶を植えつけられたもんが偽もんだったとしてもっ------作られた過去を持ってるわけじゃねぇんだっ------
刻まれた過去ってもんを知ってる---同じ風体した十四郎なんだっ・・・・・-----」
そう----
辰馬は『どっちも本物じゃ』-----そう言っていた・・・・・
要するに、作られた方だって----十四郎の何かを利用して作ったんだろ・・・・
俺からしてみれば、どっちも-------土方十四郎だ
「俺に-----選べって言うのか----?過去のねぇ十四郎か、近日の記憶のねぇ十四郎か-----・・・・」
「-----いや、----旦那のいう事も良く解かるっ--よ・・・・・解かるっ---けどっ」
「偽もんは天導衆に意図的に作られた肉体かもしれねぇっ-----それこそが天導衆の目論見なのかもしれねぇって俺だって解かるっ----けどなっ----あんなにそっくりな風体作るって事は----元は十四郎の何かを利用してるとしか思えねぇんだっよっ!----
ゼロから作ったんじゃねぇっ----壱から作ったんだっ----十四郎の何かを利用して作り上げた体にっ-----記憶を植えつけたっ------
だとすればっ・・・・・俺に選択なんか出来る訳ねぇっじゃねぇかっ-----」
「------旦那・・・・・・」
「十四郎の全てを支えてやるって決めたんだっ----全部俺のものだと思ってるんだ-----・・・・・どっちかを選んで-----どっちかを棄てるなんてっつ-----・・・・・出来る訳が----っ」
不思議だな-----
人前で泣くなんて-----情けないと思っていたのに、今は自然と涙が溢れてきた
しかも、ほうき頭の前でそんな姿晒すなんて思っても居なかった・・・・・・
こんな激情は知らないっ----
足元が覚束ない感じをずっと味わい続けて---こんな感じが----この先後何日続く?
思い切り----湿度の高い息を吸い込み----ゆっくりと吐き出す----
その間----ほうき頭は何も告げては来なかった
幾許かの時間をコイツは口を噤んだまま、俯いている
この際、空気の読める子なのかとかそんなもんはどうでもいいけど----この場での沈黙はありがたいと思っていた
これ以上、テメェの心情を明かせば明かすだけ押さえつけていた感情が溢れそう---
二人の十四郎が今、何をしているのかとか----この手に抱くのはどちらかなのかとか----柄にもなく身体が小刻みに震える
正直-----二人でも、一人でもいいから----あの漆黒の髪に触れたいと思っていた
天導衆の策に嵌められていようがなんだろうが・・・・・俺にとって必要なのは十四郎そのものであって、その後に起こるもんはどうでも良かった
世辞にも真選組だとか見廻組だとか外野の存在に気を配れる余裕はない
無理だろ----
俺は聖人でもなんでもねぇんだよ----
全知全能の神様でも有能な超能力者でもなんでもない
普通の-----人間なんだ