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□君のいる日常 53
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全日本選手権て何で毎年クリスマスなのかなあ。
シリーズ戦との兼ね合いとかを考えると仕方ないんだろうけど。
それでも今年は24日に試合は終わって、今日25日にエキシビションだからまだいいのかも。
あ、由衣ちゃんは頑張って2位に入ってちゃんと世界選手権の代表に選ばれました。
連覇は途切れちゃったけど、あの足の状態であれ以上は出来ない、っていう演技だったからよかったと思う。
治ったとは言ってもすぐに元通りって訳にはいかないから。
だから由衣ちゃんも落ち込んだりはしていない。
むしろ技術点が見込めない分を表現の方でしっかり補えてよかったんじゃないかな。
それにしても、ちょっと疲れちゃったな。
由衣ちゃんの個別の取材はくじ引きで順番決めるんだけど、昨日も今日も最後。
今年のくじ運は最悪だった。
おかげで昨日は侑士にプレゼント渡せなかったんだよね。
ホントは渡そうと思ってたんだけど。
「明日も早いんやからもう寝なさい」とか言われちゃって、お風呂入れられちゃって寝かされちゃった。
実際眠くて抵抗できずに寝ちゃう私も最低だ、クリスマスイブなのに。
それを怒らない侑士ってどんだけ優しいんだろ。
もう、分からない。
だから今日はどんなことがあっても絶対に渡すんだ。
侑士がどんなに心配してくれても、早く寝ろって言っても、絶対に抵抗しなくちゃ。
うん、頑張るっ。

リンク出てからずうっと何やら考え中な水月。
まあ、大体想像はついとるけどね。
今日こそ俺にプレゼント渡すんや、って気合い入れとるんやろな。
昨日は俺に阻止されて寝かされたもんやから。
やってなあ、くったくたになっとるんやもん。
今日のこと考えたら1分でも1秒でも早く寝せたりたかったんや。
あ、水月はな、大会の間はうちにおるんよ。
帰り遅なるからな、貴子さんのことも考えてな。
貴子さんは順調や。
ただ、相変わらず暴走気味の父娘に参っとるけどな。
ほんまにどんだけ嬉しいんかな、あのふたりは。
もうずうっとあれこれあれこれやっとる。
あれ、なんやっけ。
ああ、うちにおるって話やな。
プレゼント阻止したんはもうひとつ理由があるねん。
もし貰たらな、やっぱ可愛いし嬉しいしでキスしてまうやん。
俺、自信なかったんや。
そっから先を我慢する自信。
何しろ俺、ここんとこ2ヵ月くらいかなあ、水月とそういう雰囲気になっとらんねん。
いや、別にそのことに不満はあらへんよ。
あんだけ頑張って勉強してる水月をいかに休ましたるか、ってことしか考えとらんもん。
それやからそういう雰囲気には持っていかんのは俺やねんから。
何ともない。
でもなあ、クリスマスやで。
クリスマスプレゼント貰ってしまったらいくら俺でもなあ。
しかも今年は手編みやし。
て、あ、み、やで?
もうやっぱ貰った瞬間にぎゅうぎゅうやろ。
で、チュッてしてぎゅってしてまたチュッてしてやね。
絶対止まらんねんっ。
せやから昨日は阻止した。
その論理から言えば、今日はぜえったいに阻止いたしませんっ。
有り難〜くいただきます。
はい、全部。
それで明日はふたりでクリスマス会や。
ふたりで料理作ったりな、ケーキ作ったりするねんで。
あ、そうや。
何故か恒例となりつつある6人組の旅行な、今回は俺ら欠席やねん。
水月は行きたがったけどな、最終的には俺が決めて説得した。
結構強情さんやからそれなりに大変やったけど、最後にはちゃんと分かってくれたで。
途中ちょっと泣かれたけどな。
やってなあ、今年はここでなんとしてもきっちり疲れとっておかなあかんもん。
由衣ちゃんのケガでファイナルのカナダ行きはなかったけども、予備校通いでかなり疲れとる。
向こうでちゃんとゆっくりする、向こうでちゃんと勉強する、って一生懸命言ってたけどな。
あかんねん。
何があかんて、水月って子は家やない所では気持ちの深〜い部分がゆっくりはできんのや。
そう簡単には慣れへんの。
俺んちやって慣れるのに1ヶ月くらいかかったんやで。
蛇口ひねって出る水の量から気になってしまうんやから。
たぶんなあ、これは小っちゃい時にひとりで家におったやろ。
そん時に自分のお城を作ってしまったんやと思うねん。
心ん中にな。
寂しいとかそういうんを感じんですむ自分のお城や。
それでな、そこにできあがっとるイメージみたいのと違うとダメなんやないのかな。
それでも最近は、だいぶ頑張っとるんやで。
その証拠にお仕事モードん時はひとりでやっとるからな。
でもまあ、帰ってくるとものすっごい甘えっぷりやけど。
1日2日甘えるだけ甘えると元気になるねん。
俺としたらものすっご〜く楽しい2日間なんやけど。
そんなことやから、跡部には悪いけど俺らは行かんことにした。
もちろん、跡部も他んやつらもみんなちゃんと分かってくれたで。
跡部なんかな、来年は水月の行きたい所にしてやるなんてえらっそうに言いよった。
お前は由衣ちゃんの面倒だけ見とればええのや、まったく。
でな、明日はふたりでクリスマス会なんやけど、その前にちょっとサプライズがあるねん。
水月には内緒で準備してあるんや。
どんな顔するかな、ほんま楽しみやて。

「ねえ侑士、着いたよ?」
「へ?あれ、ほんまや。ごめん、ぼおっとしてしもた」
「やだなあ、もう〜」
「ごめんごめん。俺が払うから降りてええよ」
「うん」

今日はかなり遅くなってしもたからタクシーで帰ってきたんや。
エキシビションてな言ってみればアイスショーやから遅いんや。
しかも由衣ちゃんのインタビューは順番待ちやろ。
ついでに水月が最後引くいうおまけつきで。
最後って言っても本当はそんなに遅くなるわけやない。
最後やとふたりの余計なおしゃべりが多いっちゅうことやねん。
後ろの人がいないやろ、あかんねん、これが。
ま、最初っから今日はタクシー使おて思ってたから何の問題もないけどな。
俺が金払って降りると、水月が運転手さんに声かける。
「お世話様でした」ってな。
いつもやねんで。
ほんまええ子やねん。
ここら辺は貴子さんグッジョブやね。
次の子もアホな父娘に邪魔されんとええ子に育ててほしいもんや。

侑士がさっきからずうっと何か考えてるんだよね。
まあ何となく分かるけど。
だって時々すっごい顔が緩んでる。
かっこいいのに、もったいないなあ。
よしっ、今日はここから頑張らなきゃだ。
侑士より後からおうちに入ればいいかも。
そうすれば気づかれないでクローゼットに入ってるプレゼントを取ってこられるよね。
よし、後からだ、後からっ。
うん、上手くいきそう。
侑士が玄関開けてくれてるし。
よし、それじゃ、私は、え?

「水月、俺がいいって言うまで上がらんで待っとって」
「え?なに?なんで?」
「ええから。言うこと聞いて、な?」

水月が玄関でわたわたしとるけど、そんなんおいといて俺はリビングへ向かう。
なんやものすっごい決意を秘めた顔しとったけどな、まあええねん。
たぶんクローゼットに隠してあるプレゼントを取りに行こう思ったんやろな。
あれで隠してある思うんが笑えるよなあ。
置いてあるだけやで、あれは。
ま、毎日そこ開けてても何も見えてへんふりするんが男の優しさやで、うん、ほんまそうや。
さてっと、これで準備はええね。
なら、呼んだげましょかね〜。

「水月、入ってきてええよ」
「うん・・・」

水月がプレゼントを取りに行くっちゅう当初の目的をすっかり忘れてリビングに入ってきた。

「侑士、どうしたの、きゃあっ」

リビングのドアを開けた途端に電気が消えて真っ暗になっちゃって。
でもそうしたら次の瞬間に部屋の向こうの方がキラキラしだして。
わあ〜、ツリーだ。
きれ〜い。
あんまりきれいだったから見とれてたらいつの間にか侑士が隣に立ってた。

「どう?気に入った?」
「うん、すっごいきれい」

水月はほとんどしゃべるのも忘れて見とれとる。
水月の背丈くらいあるんやから、そりゃきれいはきれいやねんけどな。
こんなに喜ぶとは思っとらんかったで。
俺は水月の背中からリュックをそっと下ろして、そのまま後ろから抱きしめた。

「クリスマスやからな、少しくらい雰囲気ないとつまらんやろ」
「侑士、ありがとう。いつもいつもホントにありがとう」

水月が体の向きを変えて俺の背中に手を回す。
俺もその細い体を抱きしめる。
ほんまに俺の腕が余るくらいなんや。
俺の中にすっぽり入ってしまう。
そのせいだけやないけど、愛しくてたまらんねん。
俺はお前がほんまに・・・


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