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□君のいる日常 74
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いや〜昨日の水月は可愛かった。
うん、ほんまに可愛かった。
誰よりも誰よりも可愛かった。
あ、すまんな。
何のことか分からんよな。
昨日は跡部と由衣ちゃんの婚約披露のパーティーやったんや。
あ、でもホテルとかでやったんやなくて跡部んちでやったんやけど。
もっともそこら辺のちゃっちいホテルと比べたらあの家の方がよっぽどでかいけどなあ。
由衣ちゃんは世界選手権も余裕で優勝した。
ほんまにあの子はすごい。
うん、すごい。
でもって水月は可愛い。
そこんとこ忘れんでな。
跡部はあんな大袈裟なパーティーとかはほんまはやりたくなかったんや。
でもなあ、親父さんの方の付き合いとかあるやろ、あの家は。
それでやることになってしもて。
かなり抵抗しとったけど。
仕方ないわな。
そういう運命なんや、あいつは。
もっとも由衣ちゃんは「どうせやるなら楽しくやろうよ」って言って、率先していろいろと企画したりしとった。
ええ子やで、ほんま。
そして当然のごとく水月とかなえちゃんが駆り出されて、そりゃもう大騒ぎやった。
女の子ってああいうの好きやねんなあ。
寄ると触るとぴーちくぱーちく。
はっきり言って俺ら男3人は出る幕なしやった。
跡部の着るもんまで決められて。
それに黙って従う跡部も、どんだけ由衣ちゃんに惚れとるかってとこやね。
でも俺としては、結構勉強になった。
水月がこういう時にどんなことをやりたいて思うのかが、よ〜く分かった。
いつかの本番にはやったろ、って思てるねん。
当日はそれはそれは大盛況で。
こういう場合、大盛況とか言うんかな。
ま、いいか。
会社関係の人はもちろん、なんや政治家までちらほらいたで。
そういうお客さんらは大広間で勝手にやっとって、俺らは違う部屋での〜んびりお祝いした。
料理なんかもな、全然違うみたいやったで。
ジローと水月はふたりで大広間にもぐり込んでどっちの料理も食っとった。
このふたりは相変わらず、なんか食うってことにかけては仲ええねん。
ま、俺も最近は大目に見とる。
ジローがなんかするとも思えんし。
でもふたりが口を揃えて「こっちのお料理の方が美味しい!」って言うのは笑えた。
ちなみに「デザートも断然こっち!」やて。
それ聞いて跡部が苦笑いしよってな。
「シェフがこっちの方に断然気合い入れて作ったんだよ」なんて言っとった。
つまり、シェフさんは大勢のお偉いさん達よりも俺らのために、より腕を振るってくれたんやて。
俺らの方が心からお祝いしてくれてるから、なんやて。
なんかちょっと嬉しかった。
いや、自分らのために美味しいもん作ってもらったからやなくて、跡部の家の人達も跡部んことをほんまに喜んでくれとんのやな、って思ったんや。
まあもっとも食い意地ふたり組はそんなんそっちのけであっちから取ってきた料理とかデザートを食べ比べてはあ〜だこ〜だやっとったけど。
あんまり食べ過ぎて「侑士〜、胃が分かる〜」なんて言っとんのやで。
意味分かるか?
食い過ぎて胃の辺りがぽっこり出とるねん。
まったくお前はどんだけ食ったんや、って話や。
かなえちゃんにはあきれられて「あんたね、いっくら先輩が優しいからってそんなことばっかりしてるといつか振られるわよ」なんて言われて。
それ聞いて水月はうるうるしてしもて。
相変わらずこういう話に弱いねん。
どんだけ愛されたらこういう話を笑い飛ばせるようになるんやろな。
謎やわ、ほんまに。
もちろん俺は、速攻否定したで。
「大丈夫や。お腹ぽっこりの水月もすんごく可愛いから振ったりせんよ」ってな。
今度は由衣ちゃんがあきれて「侑士くん、どんだけ可愛いって言ったら言い飽きるの」やて。
そんなんなあ、決まっとるで。
「一生、飽きんよ」でこの話は終了や。
あほらし。
俺にそんなこと聞く方が間違うとる、っていつになったらみんな気がつくんかな。
そうそう、水月な、すっごいおしゃれしとったんやで。
もちろんけばけばしたんやないよ。
水色のドレスを着とったんや。
短いのを着てる子が多かったんやけど(最近ああいうのが流行りなんかな)水月のは足首が見えるかなってくらいの長めの丈でな。
スカートの部分がふわ〜っとしとって。
歩くたんびにそれがふわふわって揺れるねん。
それ最初に着た時な、そのふわふわが嬉しくて何度もそれを揺すっては喜んどった。
そういうのがこれまた異常に可愛くてなあ。
かなえちゃんも由衣ちゃんもあれこれ文句言う割には、その可愛さは認めとって「ま、確かに一番可愛いわね」って言っとった。
ただな、俺的にはちょっとだけ文句もあったんやけどな。
ほんまは俺が買うたげようと思ってたんや。
それなのに、あの娘大好き親父が割り込んできよって。
「そういうお呼ばれのお洋服を買うのは親の務めだよね」なんて言って割り込みよった。
ふたりで買いに行く、とか言っとるからそれは俺が割り込んでやった。
ふっふっふ、ざまあみろ。
やってな、店でいろんなの着てみるやろ。
そのたんびに俺に向かって「侑士、どうかなあ。似合うかなあ」とか聞くんや。
買うてくれるんは娘大好き親父なんに。
俺は勝ち誇って「そうやなあ。さっきの方がええかもしれんね」なんて答えてやった。
水月の中では、俺>親父、 なんやってことがはっきりした1日やったな。
あ〜ええ気分や、ほんま。

で、今は夕飯作りながら水月が帰ってくるのを待っとるとこ。
今日は俺は授業がない日やねん。
さすがに月1で書かなならんてのはそこそこ大変でな。
用もないのに水月にくっついて大学に行く、っちゅう訳にもいかんねん。
本音は行きたいんやで。
当たり前や。
俺がおらん間に水月にちょっかい出す奴がおらんとも限らんやろ?
水月に言わせれば「そんな勇気のある人はいないってば〜」らしいけど。
「それより、頑張って書いてね」なんてにっこりされてしもたから、我慢してうちにおる。
それにしても、ほんまに殺風景や。
水月がおらんと、この部屋もただの部屋や。
あんまりつまらんからちくわのことを水月って呼んでみたりしたんやけど、さすがにちくわもそこまでアホやないわな。
全然反応せえへんかった。
ほんま、俺って水月がおらんとあかんわ。
あ、そろそろ時間や。
今日はアスリートに寄ってくる言うてたから、遅なってるねん。
でももう帰ってくる頃や。
ほら、来た来た。

「ただいま〜」
「おかえり。上着置いたら、こっち来てごはんにしよ」

ぱたぱたと足音がして水月が顔を出す。

「もうごはんなの?帰ったら手伝おうと思ってたのに」
「ん?今日は早めに食べて出かけよう思っとんのや」
「出かけるって、どこに?」
「お花見」
「お花・・・あ、氷帝?」
「そ。そろそろ満開やて。行くやろ?」
「うん、行く!」
「じゃあ、ごはんにしよ」
「手、洗ってくる〜」


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