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□君のいる日常 106
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それからしばらくはメールをやり取りするくらいやった。
それも当たり障りのない話ばっかりで。
俺はこういうことは全部水月には話すことにしとるんや。
メールを見せたりはせんけども、「麻衣子ちゃんからメールが来た」っては話す。
せやから水月も何が起こっとるかはなんとなくは、まあはっきりかもしれんけど、分かっとって、苦笑いしとった。
「相変わらずもてもてだね〜」とか「若くて可愛いんだから、そっちにする?」なんて言うてな。
ま、別に怒ったりはしてないねん。
ただな、相手が若い女の子だから気をつけてあげて、っては言っとった。
傷つけないようにってことやろな。
優しい子やねん。
怒ってはおらんでも面白くはないやろうにな。
そんな風に、ちょこっと妙な風が吹きつつも俺らは楽しくやっとった。
でもな、そんなある日。
俺はまたひょっこり麻衣子ちゃんに会うたんや。

「あ、忍足さんだ。こんにちは!」
「ああ、麻衣子ちゃん、こんにちは。今日は『LuRa』で仕事やったん」
「はい、打ち合わせです。忍足さんもですか?」
「ん、俺も『LuRa』や。ちょこっと直しがあってな」
「直しなんてかっこいい〜」
「別にかっこよくはないけどな。麻衣子ちゃん、今日はひとりなん?」
「あ、はい。今日はこれで終わりなんです。マネージャーさんは事務所に寄らなくちゃだから」
「それでひとりなんやね」
「はい。あの・・・忍足さん、お願いがあるんですけど」
「お願い?」
「はい。あの、私、お昼まだなんですけど、もし忍足さんがよければ付き合ってもらえませんか?。ひとりだとちょっと、いろいろなので・・・」

麻衣子ちゃんて超売れっ子ってほどやないけども、それでも歩けば気づかれる程度には人気者やねん。
せやからひとりでお昼を食べたりとかは難しいんやろな。

「ええよ。俺でよければ付き合うたるよ」
「ホントですか?わあ、嬉しいな〜」
「俺は食べんけど、ええんかな」
「全然いいです〜」

それから俺らは近くのカフェに入って、麻衣子ちゃんはランチを食い、俺はコーヒーを飲んで話をした。

「今日はこれから大学なんです」
「あ、そうなんか。それでお昼、食べなあかんかったんやね」
「はい。うちの学食って、時間が過ぎると食べられないんです」
「そうなん?それは大変やなあ」
「青学はいつでも食べられるんですか?」
「まあ、人気のもんは売り切れたりもするけどな。なんでもよければ夕方でも食べられるで」
「そうなんだ〜。うちは女子大だからかなあ。2時くらいまでしかダメなんですよ」
「麻衣子ちゃんの学校は、いわゆるお嬢さん学校やろ?」
「昔は、ですよ。今はみんな普通です。一応『良妻賢母』みたいな校訓はありますけど」
「それもすごいなあ。水月やったら落第してしまうかもな」
「え〜、そんなことないですよ。水月さんてお勉強、できるんでしょう?」
「できるかどうかは知らんけど、真面目やからな。成績はええ方ちゃうかな」
「卒論とかは何なんですか?あ、すいません。プライベートなこと聞いちゃって」
「別にええよ。源氏物語やて。俺にもよう分からんのやけど『建物の観点から見た源氏物語』とか言うとった。建築デザインの先生んとことか行っとるで」
「すご〜い。何だか独創的ですね〜。私も来年は3年生だから、専門分野を決めなくちゃなんです」
「そうなんか。ま、頑張ってな」
「はいっ、頑張ります!あ、すいません、携帯が、」
「出てええよ」
「ありがとうございます・・・あ、メールだから大丈夫です」
「あれ、麻衣子ちゃんもそれなん」
「え、これですか?」
「俺のとおんなじやで」
「ホントですか〜?わあ、嬉しいなあ。でもじゃあ、水月さんともおんなじってことかな」
「いや、これはお揃いやないよ。あいつな、ああ見えてメカ好きやから結構こだわるねん」
「そんな風に見えないのに」
「せやろ?ほんまにそういうとこがおもろいんや」
「そうなんだ〜」

俺のスマホとおんなじ機種やったんや。
色もおんなじで。
麻衣子ちゃんはテーブルの上に並んで置かれた2台のスマホを見てちょっと嬉しそうやった。
もしかしたら俺の真似したんかな、とは思ったけど、まあそんなん可愛いもんやろ。
まだまだ子供っぽいとこあるんやな、なんて思っとった。
そん時、麻衣子ちゃんのスマホが震えた。

「あ、なんだろ・・・」
「仕事のこと?」
「あ、はい。ちょっとメールを返信してもいいですか?」
「ええよ、遠慮せんで」

麻衣子ちゃんはメールを返信してからまたテーブルの上にスマホを置いた。
それからしばらく話をして、その日は別れた。
麻衣子ちゃんはちゃんと自分のランチ代は払ったで。
消費税分は俺が持ったけどな。
そして俺は、極々当たり前に、その日麻衣子ちゃんと会うたことと昼飯に付き合うたことを水月に話したんや。
水月も普通にその話を聞いて、「どこのお店?」なんて聞いたりしとった。


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