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□君のいる日常 127
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「あれ、かなえから電話だ」
「かなえちゃんから?」
「うん」
「出てええで」
「うん。もしもし〜、うん、私〜。こんな時間に、どうかした?」

今日の試合が済んで、ホテルに戻ってきたとこや。
日吉の話をしよかな、なんて思った途端にかなえちゃんから電話や。
女の子ってのは、どうしてこう、どんぴしゃなんやろか。
日吉が恐らくすっごい決意を持って俺に相談してきたその日に、かなえちゃんが水月に電話。
ん〜、謎や。
女の子は謎や、ほんっまに、謎や〜。

「うん・・・うん、ねえ、それホント?間違いじゃないの?」

「誰にも話してないの?・・・うん、日吉くんにも?・・・うん、なんで?話せばいいのに・・・うん、でもさあ・・・うん、そうだけど・・・」

なんかえらく真剣やで。
おい、日吉に話さんて、なんやそれ。
何を話さんのや。
まさかほんまに「別れ話」とかやないよなあ?
日吉以外の男を好きんなった、とか?
いや、ないない。
あるはずない。
かなえちゃんに限ってそないなこと・・・ない、んやろか?

「ねえ、かなえ。ちょっと聞いて。いいから、聞いて」

水月の口調が強なった。
水月ってな、普段はふわふわほよ〜んて感じで、ほんまに頼りなげな風情やけど、やる時はやるねんで。
かなえちゃんですら、頭が上がらんこともあるくらいなんや。

「かなえ、気持ちは分かるけど、これは私に話すことじゃないよ。ちゃんと日吉くんに話さなくちゃダメだよ」

「それにね、かなえ。よく聞いてね?大丈夫だよ、大丈夫。ぜ〜ったいに大丈夫だよ」

なんや俺みたいなこと言うてるで。
最近はあんまりいらんけど、俺と水月の魔法の言葉。
なんか懐かしいなあ。
付き合い始めた頃なんて、一日に何度も言うとったっけ。
「大丈夫やで」って。

「ねえ、かなえ。ダメなことなんかじゃないよ。全然、ダメじゃないよ。もし本当だったら私もすっごく嬉しいよ。だから、ね、かなえ?」

「ちゃんと日吉くんに、言うんだよ」

「うん、今日がいいと思うよ。あのね、多分日吉くんはすっごく心配してるよ。え?何で分かるかって?だってさあ、」

「そうでもなかったら、日吉くんが侑士に相談なんかしないでしょ」

え?ええっ?
何で知っとるねん。
日吉が俺に相談したこと、何で知っとるねんっ。
ほんっまに、訳分からんで。

「んふふ、あのね、日吉くんがね、すっごい真剣な顔して侑士に話しかけててね、それからふたりで出てったから、きっとそうだと思うんだ〜」

そうか、あれ見とったんか。
相変わらず、俺んこと探すでな。
ちょうどそん時やったんやな。
なんかちょっと嬉しいな。
結婚しても、ちゃんと俺んこと探してるなんてな。
はあ〜、俺はほんまに幸せや。

「うん・・・もう平気?・・・うん、これ切ったらすぐに日吉くんに電話するんだよ。いい?『すぐ』だからね!うん、じゃあね、ばいばい」

水月が電話を切って、俺の方を向く。
いたずらっぽく笑っとる。

「かなえちゃん、何やて?」
「うん、あのね・・・」

水月が俺の傍に来て、耳に口を寄せてそっと話す。
誰もおらんのやから、内緒話なんてする必要ないんに。
ふむふむ、なになに?
え、ええ〜!?

「ほんまか、それ」
「うん、多分」
「・・・・・・・・」
「日吉くんはなんて言ってた?」
「かなえちゃんがおかしいて」
「それだけ?」
「ん、それだけ」
「ダメだなあ、もう〜。ほ〜んと、男ってダメ〜」
「その『男』には俺も入っとるん」
「どうかな〜」
「ふん、言うてろ。俺に言わせれば女の子は永遠の謎や」
「そこには私も入ってるの?」
「入ってるも何も、主にお前や」
「え〜、なんでよ〜」
「『かなえ、いいからちゃんと聞いて!』とか言えんのはお前だけやで」
「そんなこと言ってた?」
「言ってた言ってた。ぴしゃーっとな」
「ちょっと嫌かも」
「なんで」
「なんか嫌な子みたいじゃん」
「そんなことあらへんよ。姿はそのまんまでスマホ握って、電話口に向かってぴーぴー言っとるんは最高に可愛いかったで」
「なんか今度はムカついた」
「はは、そういうとこはもっと可愛いで」
「もう〜、大人なんだから可愛くなくていいよ〜」
「ダ〜メ〜や。ずうっと俺の可愛い水月でいてもらわな」
「お母さんになっても?」
「もちろんや。可愛いお母さんになってくれなあかんよ」
「じゃあ、侑士はかっこいいお父さんね」
「まかせなさい」
「あはは、おかしい〜」

ま、結局どんな問題も俺と水月には仲良しの種でしかないねん。
日吉とかなえちゃんも今頃仲良う話しとるとええんやけどな。


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