巡る季節を(完)

□第7話
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「どうしたらいいのかなあ」

ひと言つぶやいてため息もひとつ。
朝からずうっと。
忍足は何事もなかったかのように、普通に起き出して朝食を食べ、仕度をし、出かけて行った。
にっこりと笑って、行ってきますのチューをして。
「今日は早く帰れると思うで」と言って。
でも・・・泣いていた。
ベランダから手を振って、坂を下りていく後ろ姿が見えなくなるまで見送っていて思ったのだ。
先生は泣いている、と。
心の中で泣いている、と。
それを見つめながら考えた。
自分には何ができるのだろうと。
それからずうっと考えている。
洗濯を干している時も、掃除機をかけている時も、絵を描いている間も、簡単なお昼を食べている間も、ずっとずっと考えている。
何もしなくてもいいのかな、とも考えた。
でもでも・・・それじゃあ一緒にいる意味がないと思うのだ。
でもどうしたらいいのか分からない。
だから一生懸命考えた。
そして思い出した。
自分が一番悲しかった時に何が嬉しかったのか。

「そうだ、それがいいよね!」

座り込んでいたソファから勢いよく立ち上がると、服装を確認し、メイクもちょこっと直し、自分の部屋から小さなバッグを持ち出すと玄関から飛び出す。
が、すぐに戻ってくる。

「お財布、ないしっ」

靴を脱ぐのももどかしく部屋に上がり、財布をバッグに入れて、ついでにハンカチも入れて、今度こそ出かけて行く。
もう普通に使ってもいいと忍足からお墨付きをもらった車に乗って。
ちょっと遠くの大っきなスーパーまで出かけて行く。
もちろん安全運転で。
忍足との約束だから。
でも、張り切って出かけて行く。
先生のために。
大好きな先生がちょっとでも元気になれるように、出かけて行く。


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