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□君のいる日常 126
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「侑士〜、今日ってまたずっと雨が降るの?」
「ん?昼過ぎには上がるみたいやで」
「ホント?絶対?」
「さっきお天気お姉さんが言っとったけどなあ、絶対かどうかは分からんな。どないしたん」
「え?ああ、あのね。シーツを洗おうかどうしようかと思って」
「それはやめた方がええやろ」
「そうかな」
「もし雨が上がってもシーツが乾くほどは晴れんと思うで」
「そっかあ。今日は時間があるから、洗いたかったんだけどな〜」
「そのうち、天気がいい日に俺が洗ったるよ」
「うん、ありがとね。でも、ちゃんと手洗いモードで洗ってね。縮んじゃうから」
「はいはい」
「あ〜、あきれてるでしょ〜」
「あきれてはおらんよ」
「じゃあなに?」
「俺の嫁さんは可愛いな〜、って思っとんの」
「なんかもう、そればっかりだよ?」
「聞き飽きた?」
「ううん、もっと聞きたい〜」
「それでは、俺の可愛い嫁さんの忍足水月さん、今日のご予定は?」
「んふふ〜、忍足水月〜」

俺の腕ん中で、大喜びしとる。
俺らはご覧の通り、相変わらずラブラブやねん。
新婚旅行からも仲良う帰ってきたし、今ももちろんラブラブ全開で仲良しさんや。

「で、予定は?」
「えっと・・・あのね、今日はお休みだけど、これからちょこっと書いて、それでね、3時から歯医者さん!」
「歯医者?歯が痛いんか?」
「ううん、そうじゃないよ」
「じゃあなんで歯医者なんか行くねん」
「たまには検査してもらった方がいいかな、って思ったの」
「どういう風の吹き回しや。お前、歯医者、大っ嫌いやろ」
「うん、でもね、悪くなる前に診てもらった方がいいでしょ?そうしたら痛い思いをしなくてすむんだから」
「まあ、そうやけど」
「ね、侑士。ウィンブルドンは一緒に行く?」
「あ、そうか。今年からウィンブルドンも行けるんやな」
「うん、高校テニスの取材を少し早くから始められるからね。嬉しいな〜。行ってみたかったんだ、ずうっと」
「俺も行ってもええの?」
「行っちゃダメなの?」
「いや、そうやなくて、仕事やろ。俺が付いてってええんか、ってこと」
「全然いいよ!」
「おかしな言葉やな」
「行かないの?」
「もちろん、行きたいよ。やってなあ、俺にしてみたって憧れの場所やでな」
「じゃあ、お仕事が大丈夫そうだったら行こうね。手塚さんも楽しみにしてるって」
「せやな。ま、仕事はどうにでもなるから、うん、今からしっかり予定しとこ」
「でもお仕事、また増えたでしょ?大丈夫?」
「ああ、平気や。パソコン、持ってけばええしな」
「あ、そっか。今度はお仕事すればいいんだね、あっちで」
「そうやで。こないだの旅行の時は、一切やらんかったけどな。今度はお前が仕事しとる間は暇やもん、いくらでもできるで」
「楽しみだな〜。また侑士と一緒にイギリス〜」
「ちゃんと仕事せなあかんで」
「するよ。いつだってちゃんとしてるじゃん」
「そうやな。俺んことなんか忘れてまうもんな」
「ホントはちゃんと覚えてるんだよ?」
「分かっとるよ。頑張ってな」
「うんっ。手塚さんにも頑張ってもらわなくちゃね」
「そうやな。あいつ、どういう訳かウィンブルドンやと割と早く負けるからなあ」
「プレッシャーとかかな」
「どうなんやろ。あ、お前がおらんからやないん」
「え〜、そんなの関係ないよ」
「いや、分からんで。今年、勝ち進んだら、絶対にそうや」

「そんな訳ないよ〜」とか言いながら、洗濯物を干しに行く。
水月は相変わらず、外を飛び回っとる。
たまに休みやとこうやって洗濯したり、掃除したり、飯を作ったりして「主婦気分」を味わっとるらしい。
ついでに昼寝もしとるな。
ま、何も変わっとらんのやけどね。
俺も水月も何も変わっとらん。
家んことは家におる俺が主にやって、水月は外を飛び回る。
普通の家とは逆と言えば逆なんやろけど、俺らにはこの状態がほんまに心地ええねん。
こんな風やから、そういう取材の申し込みなんかも来とる。
受けようかと思っとるねん。
ふたりの家庭なんや。
ふたりがそれぞれできることをする。
一番自然やと思うけど、よそを見とるとなかなか難しいみたいやでな。
ほんまに簡単なんやけどな。
でも、相手が水月やからできるのかもしれんなあ。
飯を食えば「侑士、美味しい〜、ありがと〜」。
洗濯物を取り込んどけば「たたんでくれたんだ、ありがとね〜」。
迎えに行っても、送って行っても、何をしても、ほんまに全部に「ありがと〜」って。
それもほんまに心から言ってくれるねん。
その声と表情が大好きやから、俺、何でもやってやりたいねん。
水月が頑張れるように、何でもしてやりたい。
そう思える相手がおるからできるのかもしれんな。
俺は、ほんまに幸せもんなんやな。

「侑士、お昼、何がいい?」
「そうやなあ・・・サンドイッチ」
「また〜?」
「嘘〜」
「もう〜、意地悪なんだから〜」
「ごめんごめん。俺もちょうどきりがええとこやから一緒にやろ」
「うんっ。じゃあさ・・・」

水月が冷蔵庫の中を見て、何があるんか叫んどる。
やっぱり、俺の嫁さんは世界で一番可愛いわ。


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