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□君のいる日常 135
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ここ2、3日、水月が俺の目を見ん。
あ、別にケンカしたとかやないで。
ん〜、たまにあるねん。
こうやって俺の目を見なくなることが、たま〜にな。
こういう時はたいてい、仕事でなんか起こっとる。
今回もそうやろね。
でまあ、今回は時期的に、スケート関係でなにかが起こっとる。
多分、誰かがケガかなんかしとるんやないかな。
でも俺には言わんから。
言えんから、って言った方が正しいかな。
もちろん俺は何を知っても誰にも言わん。
水月もそう思っとる。
それは間違いない。
でも、俺には言えんのや。
選手にしても誰にしても、水月が俺に話すことをなんとも思っとらん。
俺が水月に聞いたことをぺらぺら喋ったりせんことは、みんな知っとる。
でも水月は俺には言わん。
いや、言えん。
そういう子なんや。
だからこそ、選手にあそこまで信頼される。
そして俺はそういう水月が好きでたまらん。
やってなあ、俺に言えんことを抱えた水月ってな、ほんっまに可愛いねんで。
俺に悪いて思うんやろな。
せやからもう、なんかもう、どうしていいか分からんで、あっち向いたりこっち向いたりきょろきょろ、あっち行ったりこっち行ったりうろうろうろうろ。
それはそれは可愛いねん。
ほら、今日もな。
朝からずうっと、あっちうろうろこっちうろうろやっとるねん。
こんなんをかれこれ3日くらいやっとるんやから、そろそろお終いにしてやらんとなあ。
疲れてしまうでな。

「水月」
「あ、えっと、なんでしょう」

ぶっ、喋り方までおかしなっとる。
昨日まではなんとか普通に喋っとったのに、ほんまに限界なんやろな、可愛いてたまらんわ。

「なんでしょうて、なんやねん」
「そんなこと言った?」
「ん、そう聞こえたで」
「空耳だと思うよ」
「そっか、ならええけど」
「ねえ、なあに?呼んだのは侑士だよ?」
「あ、そうやった。ごめんごめん」
「うん、いいけど、なあに?」
「水月、こっち来てちょっと座り」
「お仕事中でしょ?」
「ええから、おいで」
「うん・・・」

水月が机んとこまで歩いてきて、俺の横に立つ。
その手を取って、顔を見ると、久々に俺の顔をちゃんと見とる。

「座り」
「ん・・・」

膝の上に座って、胸に頭を当ててじっとしとる。
なあ、水月。
心配いらんのやで。
俺はお前が大好きなんやから。
な〜んも、心配せんでええ。

「落ち着いたか?」
「うん」
「分かっとるとは思うけどな」
「うん」
「俺はお前んことが大好きやで」
「うん」
「俺にこうやって甘えてるお前も、外でバリバリ仕事しとるお前も、どっちも大好きやねん」
「うん」
「せやから、なんも心配はいらん。お前の思う通りにやればええねん」
「侑士・・・」
「そうやろ?」
「うん、ありがと」
「よし、じゃあ今日も頑張っといでな。終わる頃に迎えに行くで」
「本当?」
「ああ、行ったるよ」
「嬉しいな〜」
「あ、その代わり、はい」
「侑士っていくつになっても変わんないね」
「変わってほしいん?」
「やだ」
「じゃあ、はい」
「侑士がして」
「ん、じゃあ、遠慮なく」

俺を見上げとる瞳にそっと口づけてから、今度は唇を重ねる。
水月の手が俺のセーターをきゅって握っとる。
俺は大丈夫やで。
お前のこの手が、こうやって俺を求める限り、俺は大丈夫なんや。
せやから、頑張れ。
きついこともあるやろうけど、頑張るんやで。


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