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□君のいる日常 40
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青学近くのコンビニ。
今朝も常連のサラリーマンと店主が言葉を交わしている。

「最近この店、繁盛してない?」
「時間によるんですよ」
「時間?」
「理由は彼」

店主の視線をたどると、そこには長身で少し長めの髪をしたイケメンの姿。

「は〜、あれじゃ女の子が押し寄せる訳だ」
「うちとしちゃ大助かりだけどね」

そのイケメンくんとはもちろん忍足侑士。
無理してバイトはしなくていい、とは言われているものの、水月とのデート代くらいは自分でと思って始めた。
でも忍足の世界はあくまでも水月をど真ん中に据えて回っているため、平日の早朝という妙な時間帯に働いている。
だってそれ以外はいつ水月の時間が空くか分からないのだから、自分の方が埋まっていてはいけないのだ。
この時間なら水月は寝ているし、起きていても学校へ行く訳だから問題ない。
この話を聞いた跡部他友人一同は分かってはいるものの「やっぱりこいつは病気だ」と確信した。
忍足が働き始めて2週間ちょっと。
あそこのコンビニに超かっこいい店員がいるという噂はあっという間に広がってしまった。
おかげで、まず朝の早い時間帯には女子高生でいっぱいになり、少しすると女子大生でいっぱいになってしまう。
店主としては嬉しい話なのだが、忍足がいる方のレジにしか並びたがらない子なんかもいてちょっと困ってもいる。
ただ、これは、忍足が「悪いんやけど、隣のレジに並んでくれへん?」なんてにっこり頼めばOKと言うことが分かってからはあまり問題ではなくなった。

「これだけモテるとどんな気がするんですか?」
「何聞いとんのや。朝っぱらから」
「だって興味ありますよ。毎朝この状態を見せられたら」
「俺は全然興味あらへんけど」
「彼女がいるって、本当なんだ」
「誰に聞いたん?」
「桃城って知ってますか」
「うわ、あいつまだ生きとったんか」
「同じクラスなんです、俺。で、ここでバイトしてるって言ったら忍足さんの話になって」
「あ、そうか。関口、お前って青学か」
「はい」
「こんな時間にバイトて、部活とかやっとらんの?」
「運動部じゃないんで朝練とかないんです」
「なにやっとるの」
「放送部です。あんまりかっこよくないですけど」
「そんなことあらへんやろ。運動部だけが部活やないし。俺の彼女なんか新聞部やで」
「あ、桃城が言ってました。雑誌とかにも書いてるすごい子だって」
「おい、桃城に言っとけ。人の彼女んこと勝手に噂すな、って」
「すいません」
「お前は悪ないよ。悪いのは桃城。不二の次に嫌な奴やねん」
「テニスはやらないんですか」
「ん?やらんよ。サークルももう別のに入ったしな。お前と同じ地味〜な文化系サークルや」
「どんなサークルですか。あ、すいません。しつこくて」
「ええよ、別に。お前、書評って分かるか?」
「あ、はい、分かります」
「そういう雑誌を作っとる、っちゅう妙なサークル見つけてん」
「書評の雑誌、ですか?」
「ん、本読んで書評書いて雑誌作る、っちゅうサークル。おかしいやろ」
「忍足さん、本読むの好きなんですね」
「好きやね、すごく」
「それなら楽しそうかも」
「お前、ええ感性しとるで。これを聞いて面白そう言うたんは2人目や」
「1人目は誰なんですか」
「俺の彼女」
「そうなんだ。そういう彼女なんですね」
「そうや。そういう子やねん。しかもな、可愛いんやで。ん、お前はええ奴やから特別に見せたろ」

頼まれもしないのに、携帯を取りだして開いてみせる。
そこには忍足を見上げる水月の笑顔。
その世界で一番可愛い(?)表情を撮るために床に座って本を読んでいる時にわざわざ真上から声をかけた忍足である。
この表情は誰が見ても本当に可愛いため、跡部他友人一同もこれを見せられた際は誰も異論は唱えなかった。
あのかなえですら「ま、確かにこの時の水月は誰がどう見ても可愛いけどね」と言ったほど。
そんなとびっきりの画像を見せられた関口くん。
思わず思ってしまった。
こんなにかっこいい忍足の彼女はやっぱりこんなに可愛いんじゃないか。
神様は不公平だ、って。
でも、整った顔を盛大に緩ませて語る忍足を見て思った。

「可愛いやろ?これが実物やと百万倍可愛いんやで〜」

やっぱり神様はいるのかも、って。

「忍足さんて、彼女の話すると違う人みたいですね」
「大きなお世話や。これがほんまの俺や、文句あるか、ってお前、そろそろ行かな遅刻するで。後は俺がやっとくから」
「あ、はい。すいません、じゃあお願いします」
「ん、また明日な」
「はい」

こんな感じで早朝のバイトを終えてから大学へ向かう。


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